本文
ワンヘルス”One Health”~人と動物の健康と環境の健全性は一つ~
目次
- 新着情報
- 「ワンヘルス」とは?
- ワンヘルスの歩み~理念の提唱から実践へ~
- 「福岡県ワンヘルス関連条例」について
- 「ワンヘルス」を推進するための6つの柱
- ワンへルスの世界的先進地を目指して
- 「ワンヘルス」に関する情報発信コーナー
新着情報
令和4年10月28日 「環境と人と動物のより良い関係づくり等福岡県におけるワンヘルスの実践促進に関する条例」を公布、施行しました。
令和4年 8月10日 福岡県ワンヘルス推進ポータルサイトを開設しました。
令和4年 8月10日 ワンヘルス宣言事業者登録制度を募集します。
令和4年 6月17日 SNS「Twitter」を始めました。
令和4年 3月30日 「福岡県ワンヘルス推進行動計画」を策定しました。
令和3年12月15日 SNS「インスタグラム」を始めました。
「ワンヘルス」とは?
令和元年(2019年)12月に中国武漢で感染者が確認されて以来、世界各地で猛威を振るった新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、感染の波を繰り返しながら多くの人命を奪い、各国の経済にも大きな打撃を与えました。
COVID-19やよく知られた狂犬病をはじめ、近年、国内外で大きな社会問題となった、新型インフルエンザ、牛海綿状脳症(BSE)、鳥インフルエンザ、エボラ出血熱、そしてCOVID-19と同じコロナウイルスによる中東呼吸器症候群(MERS)及び重症急性呼吸器症候群(SARS)といった感染症は、人と動物双方に感染する「人獣共通感染症」です。WHO(世界保健機関)で確認されているものだけでも200種類以上ありますが、人口増加、森林開発や農地化等の土地利用の変化、これらに伴う生態系の劣化や気候変動等によって人と動物との関係性が変化したために、元来野生動物が持っていた病原体が、様々なプロセスを経て人にも感染するようになったものと考えられています。
こうした「人獣共通感染症」が、更に人から人に感染すると、ほとんどの人がまだ免疫を持たないため、時に大規模な流行(パンデミック)となって、人類に甚大な危害を及ぼしてきました。
このような事実は、私たちに、人と動物(家畜、愛玩動物、野生動物の別を問わず全ての動物)の健康と環境の健全性は、生態系の中で相互に密接につながり、強く影響し合う一つのもの「ワンヘルス」(One Health)であると教えてくれます。私たちは、これらの健全な状態を一体的に守らなければならない、これが「ワンヘルス」の理念です。
ワンヘルスの歩み~理念の提唱から実践へ~
この理念は、平成5年(1993年)に開催された世界獣医師会世界大会で採択された「人と動物の共通感染症の防疫推進や人と動物の絆を確立するとともに平和な社会発展と環境保全に努める」という「ベルリン宣言」が端緒とされています。
そして、平成16年(2004年)、アメリカ・ニューヨークのロックフェラー大学で開催された「ワンワールド・ワンヘルス」をテーマとするシンポジウムに集結した世界保健機関(WHO)や国際獣疫事務局(OIE)、国際連合食糧農業機関(FAO)など世界中の専門家が感染症リスクの抑制を図る戦略的枠組みとして提示した12の行動計画(マンハッタン原則)を経て、平成24年(2012年)に世界獣医師会と世界医師会が「ワンヘルス推進の覚書」を調印したことで、ワンヘルスの取組は、医学と獣医学の垣根を超えて世界に広まることになりました。
日本でも、公益社団法人日本医師会と公益社団法人日本獣医師会が連携し、ワンヘルスの理念の実践に向けた取組を進めてこられましたが、平成28年(2016年)11月に本県の北九州市で、世界31か国から600名を超える医師、獣医師等が参加し、「第2回世界獣医師会-世界医師会”One Health”に関する国際会議」が開催されました。同会議では、人獣共通感染症、薬剤耐性菌対策等を含む「ワンヘルス」に関する重要な課題について、最新の情報交換と有効な対策等の検討が行われ、その成果として、「ワンヘルス」の理念の実践に向け医師と獣医師が様々な形で協力関係を強化すること等、ワンヘルス実践の礎となる4つの項目からなる「福岡宣言」が採択されました。それ以降、本県では、「福岡宣言」の地として、ワンへルスの推進に取り組んできました。
また、令和4年(2022年)11月には、「アジアからのワンヘルスアプローチ」をテーマとして、国内外の獣医師等が参加する国際会議「第21回アジア獣医師会連合(FAVA)大会」が福岡市で開催され、FAVA加盟獣医師会および所属する獣医師による、ワンヘルスの実践活動をアジア・オセアニア地域から世界に向けて発信するための方針を表明した「アジアワンヘルス福岡宣言2022」が採択されました。
【アジアワンヘルス福岡宣言2022】
- 新興・再興感染症を含む人と動物の共通感染症の予防及びまん延防止に万全を期すため、感染源、感染経路及び宿主対策についての調査・研究体制を整備するとともに、情報の共有に努める。
- 薬剤耐性菌が医療と獣医療において重大な脅威となっていることから、抗菌剤の慎重かつ適正な使用を徹底し、薬剤耐性(AMR)対策を推進する。
- 動物と人が共生する社会を構築するため、生物多様性の維持や地球環境の保全を積極的に推進する。
- 獣医学教育の更なる整備及びワンヘルスアプローチによる国際連携により、WOAH(OIE)Day One Competencies(獣医師が具備すべき知識・技能・態度)を有する獣医師の育成に取り組む。
- 医療関係団体、行政機関、市民団体及び大学、WVA、WOAH(OIE)、WHO、FAO、UNEPなどの国際機関と協力し、ワンヘルスの課題解決と推進に取り組む。
- アジアにおけるワンヘルスの課題への研究と児童、生徒及び市民に対するワンヘルス教育の普及のために、FAVA活動の拠点を整備・強化する。
本県では、令和5年(2023年)8月に福岡市に開所した「FAVAワンヘルス福岡オフィス」と連携し、さらにワンヘルスの取組を進めてまいります。
なお、令和5年(2023年)5月には、広島で開催されたG7の首脳宣言において、前年に続き、ワンヘルスに関する声明が採択されました。
同時期に開催された環境大臣会合や農業大臣会合等でも、ワンヘルスに関する声明が採択されるとともに、長崎で開催された保健大臣会合では、ワンヘルスをテーマとしたハイレベル専門家会合の開催が合意されました。
これを受けて、令和5年(2023年)10月に保健・農業・環境の3分野の専門家による合同会議が開催されるなど、国際的にもワンヘルスに関する動きが本格化してきています。
さらに、G7首脳宣言を受け、国内においても、経済財政運営と改革の基本方針、いわゆる骨太の方針2023に「ワンヘルス・アプローチの推進」が盛り込まれました。
「福岡県ワンヘルス関連条例」について
「ワンヘルス」の理念の実践、すなわち、人と動物の健康と環境の健全性を一つと捉え、一体的に守っていくためには、医師や獣医師、研究者だけでなく、行政や企業、県民の皆さんが一緒になって、様々な課題の解決に取り組んでいく必要があります。そして、この活動を次世代にも引き継ぎ、健全な状態の生態系を将来に向けて守っていくためには、ワンヘルス実践の取組を総合的かつ計画的に推進する仕組みや基盤が必要です。
そこで、令和2年(2020年)12月、本県議会において、ワンヘルスの実践に関する条例として全国で初めてとなる「福岡県ワンヘルス推進基本条例」が議員提案により可決成立し、令和3年(2021年)1月に施行しました。
この条例では、福岡県におけるワンヘルスの実践の仕組みを構築し、県民及び動物の健康並びに環境の健全性を一体のものとして守り、その活動を次世代に継承していくために、6つの基本方針を示しています。
また、令和4年(2022年)10月には、議員提案により、「ワンヘルス」の取組の実効性を確保するため、県や市町村、事業者、県民が担うべき責務などを定めた「ワンヘルスの実践促進に関する条例」が成立したところです。
福岡県では、これらのワンヘルス関連条例に基づき、「福岡県ワンヘルス推進行動計画」に掲げる施策や取組を着実に進めてまいります。
【関連リンク】
(福岡県議会)「福岡県ワンヘルス推進基本条例」が制定されました
(福岡県議会)「環境と人と動物のより良い関係づくり等福岡県におけるワンヘルスの実践促進に関する条例」が制定されました
「福岡県ワンヘルス推進行動計画」を策定しました
「ワンヘルス」を推進するための6つの柱
1.人獣共通感染症対策
人獣共通感染症とは?
感染症とは、ウイルスや細菌などの病原体が人や動物の体内に入って起こる病気のことです。そのうち、動物から人へ、人から動物へ感染する感染症を「人獣共通感染症」といい、人の感染症の約60%を占めると言われています。
感染症は、次の3つの要因がそろうことで起こるため、各要因に対する対策が必要となります。
- 感染源・・・感染症の原因となる病原体を保有し、人や動物に感染させることができる動物や食べ物など
- 感染経路・・・病原体が感染源から宿主へ移動する方法。感染している人のくしゃみや咳からでる病原体を含むしぶき(飛沫)を吸い込むことで感染する飛沫感染、手に付いた病原体が口などから入り感染する接触感染などがあります。
- 宿主・・・病原体が体内に侵入し、寄生されたり、共生される生物。宿主の生物体内で病原体が定着・増殖することにより、感染は成立します。
県の対策方針
- 人と動物及び環境の各分野の専門家などと連携し、感染源、感染経路及び宿主それぞれに対する対策を研究し、必要な対策を進めていきます。
- 人獣共通感染症の発生予防とまん延防止を図るため、県民一人一人が、日頃から手洗いなど基本的な感染予防対策を行うとともに、動物との適切な関わり方を理解し、行動するよう、こうした知識の普及啓発を行います。
- 人と動物における感染症の原因となる病原体の保有状況や発生動向を注視します。特に、これまで監視の対象とされていなかった愛玩動物や野生動物の感染症について、調査、監視を行っていきます。
- 有効な治療薬等の迅速な研究開発等を進めるため、平時から、県と民間企業等が連携して研究を進めることができる体制を整備します。
2.薬剤耐性菌対策
薬剤耐性菌とは?
細菌による感染症の場合、その細菌を死滅させたり、増加を抑えたりするには、抗菌薬(抗生物質)を使用することが有効です。
しかし、十分な効果を期待するには、1回の服用量や服用期間量を適切に守る必要があります。この服用量や期間などを守らないと、目的の細菌を死滅させることができないだけではなく、体内の他の細菌を死滅させ、抗菌薬に対して抵抗力(耐性)を獲得した「薬剤耐性菌」を発生させる原因となります。
この「薬剤耐性菌」による感染症が発生した場合、これまで使用していた抗菌薬が効かないため、治療が困難となります。
今、この「薬剤耐性菌」が増加する一方、新たな抗菌薬の開発が減少していることが世界的に問題となっています。
また、抗菌薬は、家畜などの動物にも使用されており、畜産現場でも「薬剤耐性菌」が発生し、環境への汚染や、畜産物や農産物を介して人へ拡がることも問題となっています。
そこで、世界保健機関(WHO)は平成27年(2015年)に薬剤耐性菌対策に取り組む決議(グローバル・アクション・プラン)を定め、加盟国に対し、各国の薬剤耐性菌対策進めることを要請しました。日本でも、平成28年(2016年)に薬剤耐性対策アクションプランを定め、その取組みを進めています。
県の対策方針
- 県民や県内の医療、獣医療、農林水産業等各分野への普及啓発を行います。
- 国の動向調査への協力や、県内の状況を把握し、必要な対策の指標とする動向調査、監視を行います。
- 各分野における感染予防対策の向上を図る感染予防、管理を行います。
- 各分野における抗微生物剤の適正使用の4点について、アクションプランを踏まえ、国と連携して取組を進めます。
3.環境保護
環境保護と人と動物の健康について
近年のグローバル化や大量消費・大量生産は、人や動物にとって貴重な森林や生態系を破壊し、地球温暖化等の気候変動の一因となっています。その影響は、気温上昇だけでなく、生態系の変化など、様々な問題を引き起こすことが懸念されています。
また、大規模な森林伐採や都市開発は、これまで、人間社会と触れ合う機会のなかった野生動物が保有していた病原体と、人が遭遇するきっかけを作ったとされています。
自然環境は、人を含む様々な生物が生きる場です。生態系を守り、人と動物とのすみ分けが保たれてこそ、人と動物の健康を保つことができます。そして、健全で豊かな自然環境を次世代に引き継いでいくことも重要なことです。
県の対策方針
- 「福岡県生物多様性戦略」に基づき、生物多様性の保全に関する取組を推進します。
- 「福岡県地球温暖化対策実行計画」に基づき、温室効果ガスの削減や既に現れている現象や中長期的に避けられない影響に対して適応するための取組を進めます。
- 良好な大気環境の確保、流域の特性に応じた水環境の保全と健全な水循環の確保、土壌環境の保全などに取り組みます。
4.人と動物の共生社会づくり
人と動物の共生社会について
少子高齢社会の中で、犬や猫などの愛玩動物は、人の心を癒し、家族の一員となる等、重要な存在となっています。
また、災害救助犬や盲導犬等、その特性を活かし、人のために働き、社会活動の様々な場面で活用されている動物もいます。
一方で、安易な飼養や虐待、遺棄等が問題となっています。また、飼養動物との過度なふれあいや不適切な管理等により、愛玩動物を介して共通感染症に感染する事例も発生しています。
人と動物との関係をより良く保つためには、動物の生態や本能、習性をよく理解することが大切です。また、動物をペットとして飼う場合や社会で活用する場合は、健康管理などを含んだ飼い方等を十分に知っておく必要があります。
野生動物については、その生態や習性を理解したうえで、一定の距離を保つ等、適切な関わり方を行うことが重要です。
県の対策方針
- 愛玩動物と触れ合うことは、人の心の健康や生活の質の向上に貢献することもあることから、医療、福祉、教育等、様々な分野でその活用を進めていきます。
- 愛玩動物について、終生飼養や不妊去勢手術の実施など適正飼養の普及啓発等を推進します。
- 災害発生時に、災害救助犬を活用した人の救護体制や、愛玩動物の避難や救護等を迅速に実施できる体制の整備を進めていきます。
- 野生動物に関する生態や行動について、県民の理解を深め、適切な関係性を維持する必要があるため、野生動物の個体数の管理等とともに、緩衝帯となる里地里山や、生息域となる森林等の保全、回復を推進します。
5.健康づくり
健康づくりについて
WHO憲章によると「健康とは、病気ではないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、全てが満たされている状態のこと」(日本WHO和訳)と定義されています。
例えば、多様な動植物に囲まれた自然の中で気晴らしに散歩をし、スポーツなどの趣味を楽しみ、家族や友人と過ごすことは、年齢や性別、障がいの有無に関わらず、人を元気にする力があります。
健康づくりには、人や動物が、身体的、精神的、社会的に満たされた状態で過ごすことができるよう生活環境を整え、誰もがスポーツなどの趣味を様々な形で楽しみ、調和のとれた自然環境と多様や動植物との関係の中で、主体的に健康を維持していくことが大切です。
県の対策方針
- 人や動物が、身体的、精神的、社会的に満たされた状態で過ごすことができるよう、自然とのふれあい活動を推進するとともに、自然とのふれあいの場として、自然公園等を整備していきます。
- 誰もがスポーツ等の趣味を様々な形で楽しむことができるよう、また調和のとれた自然環境と多様や動植物との関係の中で主体的に生きていくことができるよう支援していきます。
- 医療や福祉、教育等様々な分野において、愛玩動物とのふれあいを通じた健康づくりを推進していきます。
6.環境と人と動物のより良い関係づくり
環境と人と動物のより良い関係づくりについて
私たちの健康は、健全な環境の下で生産された健康な家畜その他の安全な農林水産物等を食べることにより維持されています。
安全な米や野菜等を作るには、化学物質等に汚染されていない水や土(農地)等、健全な自然環境が必要となります。
肉や卵、牛乳などの畜産物は、動物の「いのち」から生まれますので、牛や豚、鶏などが健康に育つよう、その飼育環境や餌の安全性にも配慮する必要があります。
畑や農地のある里山は、様々な動植物が生息しており、私たちの身近な自然環境の維持に貢献しています。私たちが、地元の新鮮な野菜を食べることでも、身近な環境を保つことにつながります。
納豆やチーズなどの発酵食品は、微生物の働きで作られています。また、動物の体内には消化を助ける微生物も存在します。微生物は、環境と人と動物の間で行き来し、健全な環境を保つ役割を担っています。このように、感染症の原因となる一方で、人や動物、環境に必要となる微生物が存在します。
私たちが安全な農林水産物を食べていくには、このような「食」に対する知識を持ち、農林水産物が生産されている環境等へ関心を持つことも大切なことの一つです。
県の対策方針
- 人や動物の健康を維持するために、健全な環境の下での農林水産物の生産を推進します。
- 人の健康に有益な働きをする微生物の活用を図ります。
- 食の安全・安心や環境への負荷の軽減にもつながる「地産地消」及び農林水産物への理解向上につながる「食育」を推進していきます。
- 生産及び消費における環境負荷を低減するため、環境に配慮した農業や、家畜飼養等を推進していきます。
「ワンヘルス」の世界的先進地を目指して
ワンヘルスは国連が掲げるSDGsの17のゴールの多くにも関係してます。ワンヘルスを実践する中核拠点「ワンヘルスセンター」の整備などに取り組み、福岡県がワンへルスの世界的な先進地となることを目指します。
「ワンヘルス」に関する情報発信コーナー
ポータルサイト
本県のSNS(Instagram・X(旧Twitter))
国における取組み等
〈厚生労働省〉ワンヘルス・アプローチに基づく動物由来感染症対策
〈農林水産省 動物医薬品検査所〉薬剤耐性菌のモニタリング Monitoring of AMR
福岡県における取組み等
〈環境保全課〉福岡県地球温暖化対策実行計画(第2次)の策定について
〈自然環境課〉「福岡県生物多様性戦略2022-2026」を策定しました
〈食の安全・地産地消課〉環境保全型農業直接支払交付金事業について