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福岡県労働委員会委員コラム 第7回

更新日:2024年4月1日更新 印刷

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第7回

 

「使用者と労働者の利害​」

 

公益委員 大坪 稔 

 

 私は、九州大学経済学部で経営学の教員をしていますが、労働委員会の公益委員を拝命してから8年がたち、公益委員のメンバーのなかではいつの間にか古株となってしまいました。この間、さまざまな事件を担当してきましたが、労働問題のなかでも解雇や給与は労働者にとって最も重要な問題の一つであり、使用者と労働組合間で争いとなることが多いように思います。私自身が企業の経営、特に企業のリストラクチャリング(事業の再構築)を研究対象としている関係上、今回、ある企業の人件費削減の事例について紹介したいと思います。

 

 この企業(かりに企業Aとします)は、電気機器に属する上場企業でしたが、長期にわたる業績不振に苦しみ、リストラクチャリングの一つとして人件費の削減を行いました。具体的には、減員不補充(従業員の都合による退職や定年退職により従業員数を自然に減少させること)、早期退職制度(定年前に従業員が本人の希望により退職すること)、出向・転籍(従業員がこれまで働いていた企業とは別の企業で働くこと)、賃金削減、ワークシェアリング(労働時間の短縮と賃金の削減の同時実施)などを実施しました。しかしながら、企業Aは従来から労働組合との関係性が良好でなかったこともあり、人件費の削減を十分には実施できない一方、事業内容の転換も実施することができず、最終的には同じ業種の企業に救済合併されることで企業としては消滅しています。

 

 この事例からわかることは、使用者も従業員も企業という「船」に同乗しており、使用者が船のかじ取りを誤れば、使用者も従業員も路頭に迷うことになるということです。船のかじ取り(経営上の意思決定)は、当然のことですが使用者が担っているため、不適切な経営とその結果としての業績不振の責任は使用者にあります。一般に、他の条件が一定であれば人件費の増加は企業の利益減少をもたらすため、使用者と従業員の利害は対立していると考えることができます。ただし、そうはいっても船が沈没・消滅してしまっては、使用者も従業員も路頭に迷うことになるため、企業の存続・発展という点では使用者と従業員の利害は一致しているともいえます。

 

 使用者と労働者はこのような難しい関係にあるため、両者の間で争いが生じることも多く、その解決の一手段として労働委員会が存在しています。公益委員、労働者委員、使用者委員という立場の異なる3者がこのような争いやトラブルの解決をお手伝いいたしますので、問題があればお気軽にご相談ください。

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