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福岡県労働委員会委員コラム 第16回
第16回
「対話の時代のお手伝い」
公益委員 丸谷 浩介
ここ数年、職場で「合理的配慮」を求められるようになったのではないでしょうか。 「合理的配慮」というのは、2016(平成28)年に施行された障害者差別解消法に定めるもので、今年(2024(令和6)年)から民間事業者にも義務づけられた措置のことを指しています。合理的配慮を提供せずに障がい者を不当に差別する結果となる場合には、配慮をしないことが違法であると評価されます。 このように言うと事業者にとても厳しい措置を義務づけているように見えるかもしれませんが、障がい者の目から見ると違って見えるかもしれません。視覚障がい者がコンビニエンスストアでおにぎりとお茶を買おうとしていますが、売り場がわかりません。わかったとしてもそのおにぎりやお茶の種類がわかりません。コンビニエンスストアの店員さんがお客さんと話しをしながら商品を選ぶことができれば、普通の買い物をすることができるようになります。つまり、合理的配慮とは、できること・できないこと、してほしいこと・してほしくないことについて対話することでお互いの心配を解消し、誰もが普通の生活ができるようになることがその目的です。 私は労働委員会の公益委員になって(佐賀県労委と通算して)13年になります。その間実に多様な事案の解決にあたってきました。労働者や労働組合は差別やハラスメント、不当な扱いを受けていることの苦しみを主張されます。使用者は自分の対応は正当である、困った社員をどう対応してよいか苦慮している、といったような主張をされます。主張の対立が鮮明になって労使関係もうまくいかず、そもそも話合いのテーブルに着くこともできないような、こじれた状態になることも見受けられます。 合理的配慮の基本は対話にあります。労使関係でもやってほしい・やってほしくない、できる・できない、などの対話を進めることで誰もが働きやすい・働かせやすい環境をつくることができるかもしれません。労働委員会ではどちらの主張が正しい、と命令を発することがありますが、それもまた健全な対話ができる環境をつくるために行うものです。よい環境をつくるために対話が重視される時代です。私は労働委員会が労使でよい対話ができる環境をつくることを、お手伝いできるように尽力する次第です。 |