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福岡県労働委員会委員コラム 第11回
第11回
「労使紛争と労働組合の役割」
労働者委員 桑原 忠志
行政機関や労働団体などの労働相談窓口には、日々、労働者や使用者からの様々な相談が寄せられています。そのほとんどは個別的労使紛争といわれる個々の労働者と使用者の間で発生する賃金、解雇、ハラスメントなどの労働条件や職場環境に関わる問題です。 本来、労働者の労働条件は使用者と対等な立場で契約する労働契約で決められますが、現実には使用者と個別的労使関係にある個々の労働者は弱い立場に置かれています。働く上での様々な問題を個々の労働者が使用者に要求し改善を図ることは簡単ではありません。しかし、労働組合が関与することで、集団的労使関係として、個々の労働者の問題のみならず労働者全体の利益を代表し、問題の解決に向けて使用者と対等な立場で交渉する権利が保障されます。また、労使相互の信頼関係が醸成され健全な労使関係が図られることで労使紛争の未然防止にもつながります。 労働組合の組織率や認知度は低迷する状況が続いています。一方で社会構造の変化による労働力不足の中で進む多様な働き方や働き方改革、雇用の流動化など、労働者を取り巻く環境は急激に変化しており、労使紛争も複雑化しています。このような時代だからこそ、あらためて労働組合が持つ権利とその役割が重視されるべきと考えます。 労働組合は労働者が複数人集えば自由に結成することが可能であり、行政機関の認可や届出なども必要ありません。既存の労働組合がなく、結成も困難な場合でも地域ユニオンなどの一人で加入できる労働組合も存在しています。安心して働き続けたい労働者の皆さんが1人でも多く労働組合に関心を持たれるよう願います。 労働組合の権利は、憲法第28条の労働基本権により保障され、労働組合法などに具体的に定められています。労働組合法では、労働組合に使用者との間で労働協約を締結する権能を認めるとともに、使用者が労働組合やその組合員に対して不利益な取扱いをすることなどを不当労働行為として禁止しています。 私が所属する労働委員会では、団体交渉の拒否や使用者の不当労働行為などの労使紛争が発生した場合、当事者の申請や申立てに応じて、専門的知識を持つ公労使の委員三者が協力し、公正・中立な立場で紛争のあっせんや、不当労働行為の審査・判定を行い行為が認められた場合は使用者に対して必要な命令を出すなど、労働者の団結権を擁護し、公正な労使関係の回復を図ることを基本として紛争の解決にあたります。 集団的労使関係や労働組合の結成・運営に関わる相談窓口を持つ行政機関は限られています。福岡県では内容に応じて、労働委員会と県内4カ所の労働者支援事務所において労使双方からの電話や面談によるご相談に対応し、労使関係の安定に向けた必要なサポートを行っていますので、お気軽にご相談ください。 |