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脳性麻痺の整形外科治療
新光園では、脳性麻痺のお子様の運動機能を向上するために、整形外科治療を行っています。
脳性麻痺のお子様に見られる運動障害の特徴は、
- 体を支える筋力が弱い
- 体のバランスを保ちづらい
- 筋肉に過剰なつっぱりがある
という3点にまとめることができます。
3歳頃までは、筋力が弱いことやバランスを保てないことが主症状のことが多いので、寝返り・お座り・四つ這い・膝立ち・立位・歩行などの運動を手助けしながら繰り返したり、このような運動の基礎になる姿勢を維持する練習を行ったりして、運動発達を促します。
しかしながら、4~5歳になると、筋力は強くなるものの、筋肉の過剰なつっぱりも明らかになってきて、運動発達がなかなか進まなくなります。
このようなときに整形外科手術で筋肉の過剰なつっぱりをゆるめると、体を動かしやすくなり、運動発達を一段階押し上げることができます。
手術による運動機能改善の具体例は以下の通りです。
寝返りができなかったお子さんが、横向きになれるようになった。
肘這いはできるが座れなかったお子さんが、座れるようになった。
四つ這いの姿勢はとれるが四つ這いできない状態から、四つ這いできるようになった。
四つ這いはできるが立ち上がれなかったのが、つかまり立ちできるようになった。
つかまり立ちはできるが伝い歩きできない状態から、歩行器で歩けるようになった。
歩行器で歩ける状態から、杖で歩けるようになった。
歩行器や杖で歩いていた状態から、屋内は独歩できるようになった。
元もと独歩できていたが、歩き方が上手になった。
麻痺が重いときは、このような運動機能の改善が得られないこともあります。 しかしながら、筋肉が過剰につっぱるのは、きつく、つらいことです。
また、筋肉の過剰なつっぱりは股関節の脱臼や体の変形の原因になります。そこで、麻痺が重いお子さんにも手術を行っています。
麻痺が重い場合の改善の具体例は以下の通りです。
座位保持装置での座位が安定した。
手の動きがよくなった。
口の動きがよくなり、食べやすくなった。よだれが減った。声が大きくなった。
過剰な発汗が減った。
夜、眠りやすくなった。
痛みや全身の緊張が減った。
整形外科的選択的痙性コントロール手術
整形外科手術の中にも様々な方法があります。
新光園では、 「整形外科的選択的痙性コントロール手術」 という、筋肉の過度の緊張をゆるめる手術を行っています。
この手術は、新光園の前園長の松尾隆先生によって考案されました。
脳性麻痺では、筋肉に過剰な緊張がある一方で、体を支える筋力は弱くなっています。
そこで、筋力を弱くせずに、過剰な緊張だけをやわらげたい。
このために考えられたのが 「整形外科的選択的痙性コントロール手術」です。
人の体の筋肉は、多関節筋(2つ以上の関節にまたがる長い筋肉)と単関節筋(1つの関節だけを動かす短い筋肉)に分けられます。松尾先生は、次のような多関節筋と単関節筋の働きの違いに気づきました。
すなわち、「多関節筋は体を大きく前に進めるときに働く。脳性麻痺では多関節筋が過剰に緊張している。一方、単関節筋は体を持ち上げ、細かい動作をするときに働き、関節を安定させる作用がある。脳性麻痺では単関節筋が麻痺している。」というものです。
そこで、多関節筋だけを選んで延ばすと、過剰な緊張だけがやわらぎ、単関節筋の体を支える力は保つことができます。
残された単関節筋の働きで、細かい動作がしやすくなり、関節の脱臼を防ぐこともできます。
脳性麻痺のお子さんの運動発達は7~8歳でほぼピークに達します。
この時期より後に、お子さん本人が、歩きたい、歩き方を格好よくしたい、装具をはずしたい、と希望して手術を行うこともあります。
また、悲しいことですが、10~11歳で身長・体重が増してくると、筋肉が固くなり体も重くなり、今までできていたことができなくなったり、体が痛くなったりすることがあります。
このときにも手術を行って運動機能を維持したり、体の痛みを軽くしたりしています。
成人の方にも、運動機能が低下し始めたときや痛みが出たときに手術を行って悪化を防いでいます。
脳性麻痺のお子さんの筋肉の過剰な緊張は、4~5歳から明らかになり、生涯続いて人生の様々な時期に問題を起こしてきます。
整形外科手術により、過剰な緊張をやわらげ、体を動かしやすくし、痛みを出にくくし、より健康に快適に暮らせるよう、お手伝いができますので、どうぞご相談ください。
園長(整形外科) 福岡 真二 fukuoka-s4969@pref.fukuoka.lg.jp