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「福岡県こども療育センター新光園」の沿革

更新日:2019年10月1日更新 印刷

東京大学の第二代整形外科教授であった高木憲次先生は、手足や体が不自由なこどもを差別せずに呼ぶために、「肢体不自由児」という名称を昭和 3 年に提唱されました。高木先生は肢体不自由児には「治療」と「教育」の両方が重要であることを説き、 2 つをまとめて「療育」と呼びました。また、療育を実践するための体制づくりにも尽力されたため、「療育の父」と呼ばれています。

 日本初の「肢体不自由児施設」整肢療護園も高木先生によって昭和 17 年に東京の板橋に開設されました。肢体不自由を起こす原因で当時多かったものは、脊髄性小児麻痺(ポリオ)、骨や関節の結核、先天性股関節脱臼などの先天性疾患、脳性小児麻痺(脳性麻痺)、外傷性疾患、骨髄炎でした。現在では、ポリオ・結核・骨髄炎といった感染症はワクチンや抗生物質によってほぼ消失し、先天性股関節脱臼も母体の健康状態の改善、おむつの指導による予防、乳児健診での早期発見・早期治療により減少し、外傷性疾患も適切な初期治療で完治するようになり、脳性小児麻痺(脳性麻痺)だけが残されています。

 戦後、昭和 22 年に児童福祉法で肢体不自由児施設が規定され、全国各地に肢体不自由児施設が設立されます。福岡県では粕屋新光園が昭和 28 年に福岡県児童福祉協会によって開設され、翌年、県立化されました。「福岡県立粕屋新光園」の開設には九州大学第三代整形外科教授の天児民和先生が尽力され、初代園長の松田正次先生、その後の歴代の園長、城戸正明先生、多田俊作先生、松尾 隆先生も九州大学整形外科から赴任しています。

 新光園が開設されたときの診療内容は、整形外科のみでしたが、昭和36年に理学療法、昭和50年に作業療法、昭和55年に小児科、昭和 56 年に言語聴覚療法、昭和 57 年に歯科診療、平成28年に児童精神科と臨床心理が開始され、現在の診療体制が整っています。整形外科では昭和 58 年に、「整形外科的選択的痙性コントロール手術」という新しい手術法が前園長の松尾隆先生によって考案されました。昭和59 年には、外来の幼児さんを対象とする外来保育を開始し、平成28年から児童発達支援事業に移行しました。

 肢体不自由児施設は、「肢体不自由のある児童を治療するとともに独立自活に必要な知識技能を与える施設」、重症心身障害児施設は、「重度の知的障害と重度の肢体不自由を重複する児童を保護するとともに治療及び日常生活の指導をする施設」と規定されていましたが、 H24 年から両者とも「医療型障害児入所施設」に統一されました。

 平成24年から29年にかけて全面改築を行い、平成30年9月25日には皇太子殿下・皇太子妃殿下に御視察をいただきました。令和元年10月1日には、業務内容を分かりやすく示すため、「福岡県こども療育センター新光園」に改称し、新たなスタートを切ったところです。

整形外科的選択的痙性コントロール手術

  脳性麻痺(脳性小児麻痺)は、生まれつき、お産の前後、あるいは乳児期に、脳に傷害を受け、体を動かす能力を障害された状態です。

脳性麻痺の運動障害の特徴は、筋肉が過度に緊張して体を動かしづらい、体を曲げる筋肉も伸ばす筋肉も両方とも緊張するため、曲げることも伸ばすことも難しい、そして、重力に逆らって体を持ち上げる筋力が弱く、首が座らない、お座りができない、立ちあがれないことです。

 新光園の前園長の松尾隆先生は、「ヒトの体の筋肉は、二つ以上の関節を動かす多関節筋と、一つの関節だけを動かす単関節筋に分けられ、多関節筋は水平面で体を推進するときに働き、単関節筋は重力に逆らって体を持ち上げて安定するのに働く」ことに気付きました。脳性麻痺では多関節筋が過度に緊張して姿勢の異常が起こります。そこで、多関節筋だけを選択的に延長する手術を行うと、異常姿勢を軽減することができます。多関節筋を延長しても、単関節筋を残しておけば、体を直立に支える能力が残ります。

整形外科的選択的痙性コントロール手術の原理を示す図です。

整形外科的選択的痙性コントロール手術
(松尾 隆:脳性麻痺の整形外科的治療.創風社,東京,1998年)

 脚を内に閉じる筋肉が過度に緊張して歩きにくいとき、これを治そうとして従来の手術法を行うと、手術後は脚を閉じられなくなり、脚が過度に開いてしまうことがありました。これに対し、松尾先生の手術法では、手術後も脚を閉じる筋力がしっかり残り、脚が真っすぐ前を向きます。

 左が従来の手術法の写真、右が整形外科的選択的痙性コントロール手術の写真です。 

従来の手術法(左)、整形外科的選択的痙性コントロール手術(右)
(上段:手術前、下段:手術後)

(松尾 隆:脳性麻痺の整形外科的治療.創風社,東京,1998年)

 

 股関節を曲げる筋肉が過度に緊張しているときも、従来の手術法で股関節を曲げる多関節筋と単関節筋の両方を切ると、手術後は股関節を曲げづらくなりました。松尾先生の手術法では手術後も筋力が保たれ、従来の手術法より歩きやすくなります。

 左が従来の手術法の写真、右が整形外科的選択的痙攣性コントロール手術の写真です。

従来の手術法(左)、整形外科的選択的痙性コントロール手術(右)
(上段:手術前、下段:手術後)

(松尾 隆:脳性麻痺の整形外科的治療.創風社,東京,1998年)

 

 

 首の筋肉の過度の緊張や不随意運動を抑えるための手術法は松尾先生によって全く新たに考案されました。首を反らす多関節筋と首を曲げる多関節筋を切離すると、術後は頭を真っすぐ支えられるようになります。

左が手術前の写真、右が手術後の写真です。

手術前(左)、整形外科的選択的痙性コントロール手術の手術後(右)

(Matsuo T: Cerebral Palsy. Spasticity-control and Orthopaedics. Soufusha, Tokyo, 2002)

 

 

 

 腰の筋肉の過度の緊張や側弯症に対する手術法も、松尾先生によって新たに考案されました。体を横に曲げる長い背筋と腹筋を切離することで、背中の変形や過度の緊張を軽減できます。

 

 左が手術前の写真、右が手術後の写真です。

手術前(左)、整形外科的選択的痙性コントロール手術の手術後(右)

(松尾 隆:脳性麻痺の整形外科的治療.創風社,東京,1998年)

 重度の脳性麻痺で全身の緊張が著しい場合は、股関節・肩関節・腰・首の手術を数回に分けて行って緊張をやわらげます。全身の緊張をやわらげると、痛みや苦しさを減らし、夜眠りやすく、椅子に座りやすく、ご飯を食べやすくすることができます。全身緊張をおさえることには、誤嚥による肺炎、腹圧の上昇による胃から食道への逆流、腰の反りによる腸閉塞などの内科合併症を防ぐ効果もあります。

 左が手術前の写真、右が手術後の写真です。

手術前(左)、整形外科的選択的痙性コントロール手術の手術後(右)

(松尾 隆:脳性麻痺の整形外科的治療.創風社,東京,1998年)

 このように、松尾先生が考案された「整形外科的選択的痙性コントロール手術」によって、脳性麻痺のお子さんの運動障害や苦痛を軽減することができますので、どうぞご相談ください。

新光園・園長(整形外科) 福岡 真二

fukuoka.s4969@gmail.com

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