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賃金支払いの基本ルールを理解しましょう
労働基準法では、給料、手当、賞与などの名称に関わらず、労働の対価として使用者が労働者に支払うすべてのものを「賃金」と定義しています。(労働基準法第11条)
賃金は、労働者にとって大事な生活の糧です。そのため、労働基準法では、賃金が確実に労働者の手に渡るよう、支払い方法に関するルールが定められています。
1.賃金支払いの5原則
賃金の支払いについては、労働基準法第24条に5つの原則が定められており、会社が賃金を支払う際の基本的なルールとなります。
(1)通貨(現金)払いの原則
賃金は、通貨(現金)で支払わなければなりません。現物支給や小切手、手形、商品券での支払いは原則禁止です。
ただし、労働者の同意があれば、銀行口座、証券総合口座への振込のほか、厚生労働大臣の指定する資金移動業者の口座などへの振込(いわゆる「デジタル払い」)は可能です。この場合、労働者の同意を得るほか、労働者が指定する本人名義の口座に振り込むことなど、一定の条件を満たしている必要があります。
(2)直接払いの原則
賃金は直接労働者本人に支払わなければなりません。
家族や代理人への支払いは原則禁止です。労働者が未成年者の場合でも、親や後見人等に支払うことはできません。
ただし、家族等を単なる「使者」として受領させることは認められています。
(3)全額払いの原則
賃金は、税金や社会保険料など法令で定められたもの及び労働者の過半数で組織された労働組合(労働組合がない場合は労働者の過半数を代表する者)との書面による協定で認められた組合費などを除き、その全額を支払わなければなりません。
会社独自の控除(罰金や損害賠償金など)は原則禁止です。
(4)毎月1回以上払いの原則
賃金は月に1回以上支払わなければなりません。(臨時に支払われる賃金や賞与などは対象外です。)
(5)一定期日払いの原則
賃金は毎月決まった日に支払わなければなりません。例えば、「月末払い」と定められていれば、毎月月末に支払う義務があります。
「毎月20日」のように周期的に来る特定の支払日を定めなければならず、「毎月20日から25日」「毎月第3金曜日」といった幅のある定め方は認められません。
2.賃金支払いに関するその他のルール
(1)相殺の禁止
労働者への貸付金や労働者の過失による損害額を一方的に賃金や退職金から相殺することは、上記「1.(3)全額払いの原則」に反するため、基本的にできません。 (労働基準法第17条)
(2)賠償予定の禁止
労働者に契約違反があった場合の違約金や損害賠償額をあらかじめ決めておくことは、退職の自由を奪うことになるため禁止されています。
現実に生じた損害についての賠償請求を禁止するものではありませんが、仮に会社に損害を与えた場合でも、労使双方の過失割合などを考慮した上で賠償義務が判断されます。 (労働基準法第16条)
(3)強制貯金の禁止
労働契約に付随して貯金の契約や預貯金を管理する契約をしてはなりません。労働者の委託を受けて管理する場合は、労働基準監督署への労使協定書の届出が必要です。 (労働基準法第18条)
(4)最低賃金の遵守
賃金は、最低賃金法に基づいて定められた最低賃金以上の額を支払わなければなりません。 (労働基準法第28条、最低賃金法)
3.賃金の時効
賃金には、労働基準法により時効が定められています。現在の労働基準法では、未払賃金の請求権は賃金支払期日から3年間(退職金は5年間)で時効となります。
時効が成立してしまうと、原則として賃金を請求することができなくなりますので、早めに対処することが重要です。
4.賃金支払いに関するQ&A
Q:給料日が過ぎても給料が支払われません。社長に支払いを求めても、今、経営状況が厳しくすぐに払えないので待ってほしいと言われました。
A:使用者は、労働基準法に定められた支払のルールに則って賃金を支払う義務があります。資金繰りなど経営上の理由があっても、賃金未払いが許されるわけではありません
まずは、使用者に速やかに支払を行うよう求めましょう。
使用者側に誠意が見られなかったり、話し合いがつかない場合の対処法としては、内容証明郵便による請求、労働基準監督署への申告、裁判上の手続の申立等があります。
具体的な方法については、労働者支援事務所又は労働基準監督署に相談してください。
※なお、会社の倒産(中小企業は事実上の倒産を含む)による賃金未払いについては、立替払制度が利用できる場合があります。労働基準監督署が窓口となっておりますので、速やかに問合せされることをお勧めします。
Q: 職場に「遅刻をしたら1回につき罰金1万円」という決まりがあります。本当に払わないといけないのかと尋ねたところ、あらかじめ告げていたことであり、就業規則にも書いてあるので払わないといけない、賃金からの天引きになるとのことですが、本当にそうなのでしょうか。
A:遅刻に対する「罰金」は、労働基準法第16条(賠償予定の禁止)違反の可能性が高く、労働基準法に反する就業規則の規定は無効ですので、支払う必要はないと考えられます。
また、賃金からの天引きも、労働基準法第24条の「賃金全額払いの原則」に反しています。ただし、遅刻や欠勤した時間、日数分の賃金を差し引くことは認められます(ノーワーク・ノーペイの原則)。
なお、就業規則の懲戒規定に基づいた適切な手続きによる「減給の制裁」や具体的な損害に対する「損害賠償請求」であれば許容される場合がありますが、これらは罰金とは別物です。
その場合でも、減給額は労働基準法91条で上限が定められています(1回の減給が平均賃金の1日分の半額まで、総額が1賃金支払期間における賃金総額の10分の1まで)。この上限を超える減給は違法です。
また、損害賠償請求は、実際に発生した損害額に基づいて請求されるものであり、あらかじめ金額を定めておくことは労働基準法16条で禁止されています。
疑問や不安があれば、労働者支援事務所、労働基準監督署や弁護士などの専門家に相談しましょう。
5.最後に
賃金に関するトラブルは、労働者の生活に直結する重大な問題につながります。一日でも早い解決のために、一人で抱え込まず、早めに専門家や公的機関に相談してください。
- 労働者支援事務所:労働問題に関して自己解決のための助言を行っています。どこに相談したらいいかわからないとき、まずは労働者支援事務所にお尋ねください。
- 労働基準監督署:労働基準法を所管しています。労働基準法違反については会社への指導も可能です。
- 弁護士:法的なアドバイスや交渉、訴訟の依頼ができます。
↓ 「賃金」に関しては、以下のサイトもご参照ください ↓
確かめよう労働条件 労働条件に関する総合サイト(厚生労働省)労働条件Q&A(「賃金」の項をご覧ください)
労働基準法に関するQ&A(厚生労働省)(「賃金」の項をご覧ください)

