本文
福岡県情報公開審査会答申第129号
「特定団体に対する補助金に関する文書の部分開示決定処分に対する異議申立て」の答申内容を公表します。
答申
1 審査会の結論
福岡県知事(以下「実施機関」という。)が、平成19年10月15日19人同調第946号で行った部分開示決定(以下「本件決定」という。)により非開示とした部分のうち、別表に掲げる「審査会が開示妥当と判断した部分」は開示すべきである。
2 異議申立てに係る対象公文書の開示決定状況
異議申立てに係る対象公文書(以下「本件公文書」という。)は、平成14年度及び平成18年度の○○(以下「本件団体」という。)への補助金額の確定通知、本件団体への補助金の実績報告である。
実施機関は、本件公文書に記載されている情報のうち、別表に掲げる非開示部分については福岡県情報公開条例(平成13年福岡県条例第5号。以下「条例」という。)第7条第1項第2号及び第4号に該当するとして非開示とし、その余の部分は開示している。
3 異議申立ての趣旨及び経過
(1)異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、実施機関が行った本件決定の取消しを求めるというものである。
(2)異議申立ての経過
ア 平成19年9月28日付けで、異議申立人は、実施機関に対し、条例第6条第1項の規定に基づき、本件公文書の開示請求を行った。
イ 平成19年10月15日付けで、実施機関は本件決定を行い、その旨を異議申立人に通知した。
ウ 平成19年10月16日付けで、異議申立人は、本件決定を不服として、実施機関に対して異議申立てを行った。
4 異議申立人の主張要旨
異議申立書及び意見書における異議申立人の主張を要約すると、次のとおりである。
(1)本件団体に対する補助金額を開示しないことは、「公金の使途を明確化し補助金の妥当性を検証する」という情報公開請求の本旨を損なうもので、到底容認できない。
(2)実施機関が主張する部分開示の理由は、身内の論理に過ぎず、税金の使途明示を求める県民にとって納得できるものではない。
(3)補助金の見直し作業や人権教育・啓発施策の実効性を検証するためにこそ、補助金額の開示は必要不可欠である。
5 実施機関の説明要旨
公文書部分開示決定通知書及び部分開示理由説明書における実施機関の説明を要約すると、次のとおりである。
(1)条例第7条第1項第2号該当性について
本件公文書に記載された「本件団体の印影」、「本件団体の代表者の印影」は、本件団体に関する情報であり、開示することにより本件団体の権利利益を害するおそれがある。
(2)条例第7条第1項第4号該当性について
本件公文書に記載された「補助金額等」は、開示することにより、今後の行政運営に支障を及ぼすおそれがある。
その理由は、現在、当該補助金の見直しを進めており、交付団体ごとの個別の補助金額等を開示すると、補助金交付の有無や補助金額の多寡に関する団体等からの不満が出て混乱し、補助の見直し作業や人権教育・啓発に関する施策の策定及び実施に多大な支障を来たすことが危惧されるからである。
6 審査会の判断
(1)本件公文書の性格と非開示情報について
ア 補助金の概要について
本県では、昭和44年の同和対策事業特別措置法の施行以来、同和問題の早期解決のための関係諸施策の推進に努めてきた。
本件団体は、全国及び県内全域に活動基盤を有し、人権・同和全国大会等の啓発活動を実施している団体であり、本県は、昭和46年度から本件団体が実施する住民啓発や紛争調整等に関する事業に対して補助金を交付してきた。
なお、平成14年3月末に地域改善対策特定事業に係る国の財政上の特別措置に関する法律(昭和62年法律第22号。)が失効したことに伴い、同和対策事業については、廃止又は一般対策への移行が進められ、本件団体への補助金も、県民に対する人権教育・啓発に関する施策を推進することを目的として、同和問題をはじめとする人権問題について理解と認識を深めるための啓発活動等、公益性が認められる事業に対し、福岡県補助金等交付規則に定めるところにより、補助金を交付するという内容に転換している。
当該補助金は、一般対策として人権教育・啓発推進法の趣旨を踏まえて交付しているものであるが、同様の補助金を交付している他の団体の分も含め、現在も補助金額の減額や補助事業費の内容について見直しを進めているところである。
イ 本件公文書の性格と非開示情報について
本件公文書は、
(a) 本件団体への補助金額の確定通知 (平成14年度・平成18年度)
(b) 本件団体への補助金の実績報告 (平成14年度・平成18年度)
である。
当該補助金の対象は、本件団体の全国大会、青年部研修大会、九州連合会研修大会、幹部研修の参加者の旅費、宿泊費、昼食費、参加費等及び同和地区環境改善指導事業費(生活環境改善指導、同和問題の啓発及び指導者研修、同和問題に関する紛争調整)である。
実施機関は本件公文書に記載された「本件団体の印影」及び「本件団体の代表者の印影」が条例第7条第1項第2号に、「補助金額等」が条例第7条第1項第4号に該当するとして非開示としている。
(2)条例第7条第1項第2号該当性について
ア 条例の規定
条例第7条第1項第2号本文は、法人等又は事業を営む個人(以下「事業者」という。)の自由な経済活動その他の正当な活動を保障し、事業に関する情報の開示により不利益を与えることを防止するという観点から、事業者の非開示情報としての要件を定めたものである。
同号ただし書は、当該情報を公にすることにより保護される人の生命、健康等の利益と、これを公にしないことにより保護される事業者の権利利益とを比較衡量し、前者の利益を保護することの必要性が上回るときには、当該情報を開示しなければならないとするものである。
実施機関は、本件公文書である本件団体への補助金の実績報告に記載された、「本件団体の印影」及び「本件団体の代表者の印影」が同号に該当するとして本件決定を行っていることから、同号該当性について以下検討する。
イ 印影について
「本件団体の印影」及び「本件団体の代表者の印影」は、いずれも本件団体が事業活動を行う上での認証的機能を有する情報であるが、これらを公にすることにより、本件団体の正当な利益が害されるかどうかについては、当該印影の使用状況を踏まえて判断する必要がある。
(ア)「本件団体の印影」について
「本件団体の印影」は、本件団体が実施している大会の開催等について広く周知を図るための案内文に押印され、不特定多数の者が広く知り得る状態に置かれていることから、これを公にしても、本件団体の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれが生じる情報とは認められない。
(イ)「本件団体の代表者の印影」について
「本件団体の代表者の印影」は、大会の案内文には押印されていないことから、不特定多数の者が広く知り得る状態に置かれているとはいえず、一方で、補助金の実績報告という、内容の正確性が強く求められる書類に押印されていることから、押印の対象が限定された重要性を有する印影であると認められる。
したがって、本件団体の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがある情報(条例第7条第1項第2号)と認められる。
なお、当該情報が同号ただし書に該当しないことは明らかである。
ウ 結論
実施機関が「本件団体の代表者の印影」を非開示とした決定は妥当であるが、「本件団体の印影」については開示すべきである。
(3)条例第7条第1項第4号該当性について
ア 条例の規定
条例第7条第1項第4号は、県の機関等が行う事務又は事業の適正な遂行を確保する観点から非開示情報としての要件を定めたものである。
なお、同号に規定する「支障」の程度は名目的なものでは足りず、実質的なものが要求され、「おそれ」の程度も単なる確率的な可能性ではなく、法的保護に値する蓋然性が要求される。
実施機関は、別表「非開示部分一覧表」の「非開示部分」の欄に記載された「補助金額等」の部分が、同号に該当するとして本件決定を行っていることから、同号該当性について、以下検討する。
イ 「補助金額等」について
本件公文書に記載された「補助金額等」は、本件団体が受けた補助金額が直接又は間接的に判明する情報である。
実施機関は、現在、当該補助金の見直しを進めており、当該情報を開示した場合、補助金交付の有無や補助金額の多寡に関する団体等からの不満が出て混乱し、補助金の見直し作業や人権教育・啓発に関する施策の策定及び実施に多大な支障を来たすことが危惧されることを非開示理由として主張している。
しかし、補助金の決定は毎年度の予算に基づいて行われ、予算編成作業の過程において、補助金の必要性の検討や金額の見直しが行われるものである。
このことは、本件に限らず他の事業の補助金の場合にも当てはまることであり、見直し中であることを理由に当該情報を非開示とするのであれば、他の事業の補助金についても同じように非開示とされるべきであるが、実際には開示することが一般的な取扱いとなっており、本件についてのみ取扱いを変える理由はない。
また、今回の見直しが、毎年度の予算編成時の見直しと性質が異なる、同和対策事業全般に係る制度的なものであったとしても、複数の団体が相互に補助金額を比較したり、補助金の交付を受けていない団体が交付を受けている団体との取扱いの差を問題視したりするなど、実施機関に対し様々な要求等を行う可能性は、見直し中であるかどうかにかかわらず常に存在するものであり、見直し中であることを特段の理由として、当該情報を非開示とすべきということにはならない。
さらに、そもそも実施機関は、県民に対する人権教育・啓発に関する施策を推進することを目的として、公益性の認められる事業に対し、福岡県補助金等交付規則に定めるところにより補助金を交付しているのであり、このように補助金の交付及びその金額の決定が適正になされているのであれば、その決定権は実施機関にあることが明らかであるから、「補助金額等」が開示されたとしても、それによって、補助金の見直し作業に著しい支障が生じるとは認められない。
ウ 結論
本件公文書に記載された「補助金額等」は、公にすることにより事務の適正な 遂行に支障を及ぼすおそれがある情報とは認められない。
(4)異議申立人のその他の主張について
異議申立人は、補助金の交付対象となった事業や本件団体の活動実態を県が検証していないこと等について種々主張しているが、当審査会は、実施機関が行った非開示決定等の妥当性を判断する機関であり、当該主張は当審査会の判断を左右するものではない。
以上の理由により「1 審査会の結論」のとおり判断する。
別表
非開示部分一覧表
本件公文書名 | 非開示部分 | 該当号 | 審査会が開示妥当 と判断した部分 |
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(a)本件団体への補助金額の確定通知 (平成14年度) (平成18年度) | 【補助金額等】(補助金額の確定額) | 4号 | 左記の全て |
(b)本件団体への補助金の実績報告 (平成14年度) (平成18年度) | 【印影】(本件団体の印影) (本件団体の代表者の印影) | 2号 | 本件団体の印影 |
【補助金額等】(補助金の予算額・収入済額) (県連負担金の予算額・収入済額) (収入・支出の部の予算額・収入済額・支出済額の計) (比較(増減)) (支出の部の区分(科目)ごとの予算額・支出済額等) | 4号 | 左記の全て |