本文
福岡県情報公開審査会答申第122号
「産業廃棄物処理実績報告書の部分開示決定処分に対する異議申立て」の答申内容を公表します。
答申
1 審査会の結論
福岡県知事(以下「実施機関」という。)が平成18年11月17日18廃第1786号で行った部分開示決定(以下「本件決定」という。)により非開示とした部分のうち、「法人の代表者の印影」及び「担当者の氏名」を非開示としたことは妥当であるが、その余の部分は開示すべきである。
2 異議申立てに係る対象公文書の開示決定状況
異議申立てに係る対象公文書(以下「本件公文書」という。)は、株式会社○○(以下「本件法人」という。)が実施機関に提出した産業廃棄物処理施設処理実績報告書及び産業廃棄物の処理実績報告書である。
実施機関は、本件公文書に記載されている情報のうち、別表に掲げる情報について、福岡県情報公開条例(平成13年福岡県条例第5号。以下「条例」という。)第7条第1項第1号及び第2号に該当するとして非開示とし、その余の部分は開示している。
3 異議申立ての趣旨及び経過
(1)異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、実施機関が行った本件決定の取消しを求めるというものである。
(2)異議申立ての経過
ア 平成18年10月19日付けで、異議申立人は、実施機関に対し、条例第6条の規定に基づき、本件公文書の開示請求を行った。
イ 平成18年11月2日付けで、実施機関は、対象公文書の検索等に時間を要することを理由として、条例第12条第2項の規定に基づき、異議申立人に対し、開示決定期間の延長を通知した。
ウ 平成18年11月17日付けで、実施機関は、本件公文書に記載されている情報の中に条例第7条第1項第1号及び第2号に該当するものがあるとして、本件決定を行い、その旨を異議申立人に通知した。
エ 平成18年11月27日付けで、異議申立人は、本件決定を不服として実施機関に対し、異議申立てを行った。
4 異議申立人の主張要旨
異議申立人の主張を要約すると、次のとおりである。
(1)条例第7条第1項第1号該当性について
実施機関が行った本件決定に係る非開示部分に、条例第7条第1項第1号に規定する非開示事由は存在しない。
(2)条例第7条第1項第2号該当性について
実施機関が行った本件決定に係る非開示部分に、条例第7条第1項第2号に規定する非開示事由は存在しない。
5 実施機関の説明要旨
実施機関が本件決定を行った理由を要約すると、次のとおりである。
(1)条例第7条第1項第1号該当性について
本件公文書に記載された本件法人の「担当者の氏名」は、条例第7条第1項第1号に定める「個人に関する情報であって、特定の個人を識別することができるもの」に該当する。
(2)条例第7条第1項第2号該当性について ア 本件公文書に記載された本件法人の「法人の印影」及び「法人の代表者の印影」は、本件法人における取引上の重要性が認められ、条例第7条第1項第2号に定める「公にすることにより、法人等の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるもの」に該当する。
イ 本件公文書に記載された「委託者(排出事業者又は処分業者)の氏名又は名称、排出場所の住所」は、本件法人及び委託者の取引先に関する情報であり、重要な顧客情報である。
よって、条例第7条第1項第2号に定める「公にすることにより、法人等の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるもの」に該当する。
6 審査会の判断
(1)本件公文書の特定及び内容について
ア 本件公文書の特定
本件公文書は、廃棄物の処理及び清掃に関する法律(昭和45年法律第137号。以下「廃掃法」という。)第18条に定める知事の報告徴収権により実施機関が徴収し、又は、福岡県廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行細則(平成4年福岡県規則第58号。以下「施行細則」という。)第14条に定める提出義務に基づき実施機関に提出された本件法人の次の文書である。
○ 産業廃棄物処理施設処理実績報告書-中間処理施設-平成12・13・14・15・16・17年度)
○ 産業廃棄物処理施設処理実績報告書-最終処分場-(平成13・14・16・17年度)
○ 産業廃棄物の処理実績報告書-中間処理業-(平成13・14・15・16・17年度)
イ 本件公文書の内容
(ア)産業廃棄物処理施設処理実績報告書
本件法人の名称等に関する事項(住所、名称、代表者の氏名、担当者の氏名、法人の印影、法人の代表者の印影、電話番号等)及び産業廃棄物処理施設の前年度の年間処理実績について、産業廃棄物の種類、処理実績量、処理残渣量、処理残渣の処分方法、施設の能力、稼働状況等が記載されている。
(イ)産業廃棄物の処理実績報告書
本件法人の名称等に関する事項(住所、名称、代表者の氏名、法人の代表者の印影、電話番号等)及び許可を受けている業種の前年度の処理実績について、個別の委託契約ごとに、産業廃棄物の種類、委託者(排出事業者又は処分業者)の氏名又は名称、排出場所の住所、受託量、処分方法、処分量、処理後廃棄物の委託状況等の情報が記載されている。
(2)条例第7条第1項第1号該当性について
ア 条例の規定
条例第7条第1項第1号本文は、個人の尊厳の観点から、個人のプライバシーを最大限に保護するため、特定の個人を識別することができる情報については非開示とすることを定めている。
また、条例第7条第1項第1号ただし書は、同号本文に規定する情報に該当する場合であっても、公益的見地から開示することが必要と認められるような場合を定め、例外的に開示することとしている。
イ 本件法人の「担当者の氏名」について
本件公文書に記載された本件法人の「担当者の氏名」は、個人に関する情報であって、特定の個人を識別できる情報であり、同号本文に定める個人に関する情報である。
また、公益的見地から開示することが必要と認められるような特段の事情は存在せず、同号ただし書に該当しない。
(3)条例第7条第1項第2号該当性について
ア 条例の規定
条例第7条第1項第2号本文は、法人等又は事業を営む個人の自由な経済活動その他の正当な活動を保障し、事業に関する情報の開示により不利益を与えることを防止するという観点から、公にすることにより、当該法人等の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがある情報については非開示とすることを定めている。
また、条例第7条第1項第2号ただし書は、同号本文に該当する情報を公にすることにより保護される人の生命、健康等の利益と、これを公にしないことにより保護される事業者の権利利益とを比較衡量し、前者の利益を保護することの必要性が上回るときには、当該情報を開示しなければならないと定めている。
なお、権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがある情報かどうかの判断に当たっては、情報の内容のみならず、法人等の営む事業の業種やその置かれた社会的状況、事業内容を十分考慮して適切に判断することが必要であると考える。
イ 法人の代表者の印影について
本件公文書に記載された本件法人の代表者の印影は、実施機関に提出する処理実績報告書の記載内容が真正なものであることを証明する認証的機能を有する性質のものであり、登記所に登記された本件法人の代表者印の印影であると認められる。
法人の代表者の印影は、取引上重要なものであり、同号本文に定める、法人等の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがある情報である。さらに、当該印影について、同号ただし書に定める、人の生命、健康、生活又は財産を保護するため公にすることが必要であると認めるべき特段の事情は存在しない。
ウ 法人の印影について
本件公文書に記載された本件法人の印影は、本件法人が事業活動を行う上での認証的機能を有する情報であるが、本件公文書中に本件法人の代表者の印影と並列して使用されている状況も認められ、一般に社印といわれるものの印影である。
社印の印影は、営業上自らが公表しているのが通例であり、当該印影は同号本文に定める、法人等の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがある情報とは認められない。
エ 「委託者(排出事業者又は処分業者)の氏名又は名称、排出場所の住所」について
本件公文書に記載された「委託者(排出事業者又は処分業者)の氏名又は名称、排出場所の住所(市町村名までは開示されている。)」は、実施機関がいうように、本件法人及び委託者の取引関係を示す情報であると認められる。
しかし、産業廃棄物処理の業種においては、排出事業者や産業廃棄物処理業者に厳しい責任を課した廃掃法の定めや、環境分野における情報公開の必要性、周辺住民への影響からの社会的要請、県が策定した「廃棄物処理計画」に掲げる情報公開に向けた計画等から判断すると、一定の限度で業務内容を公にすることが求められていると見るべきである。
よって、本件法人における委託者(排出事業者又は処分業者)に関する情報は、開示することにより多少の不利益が生ずるおそれがあるとしても、それは産業廃棄物処理業者として受忍すべきものであり、同号本文に定める、権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがある情報とは認められない。
また、同様の理由から、委託者(排出事業者又は処分業者)の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがある情報とも認められない。
(4)実施機関の事務処理について
当審査会の審査過程において、実施機関が、本件法人に係る一部の年度の処理実績報告書を取得していないことが確認された。
実施機関は、取得しなかった理由を、未取得に係る処理実績報告書が本件法人から提出されなかったためと説明している。
しかしながら、施行細則第14条において提出が義務付けられた処理実績報告書を、未取得のまま徴収せず、開示請求における文書特定に支障を生じさせたことは、実施機関の事務処理上、問題があったと言わざるを得ない。
(5)結論
以上の理由により、「1 審査会の結論」のとおり判断する。
別表
非開示一覧表
本件公文書 | 非開示部分(適用条項) |
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産業廃棄物処理施設処理実績報告書-中間処理施設-(平成12・13・14・15・16・17年度) |
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産業廃棄物処理施設処理実績報告書-最終処分場-(平成13・14・16・17年度) | |
産業廃棄物の処理実績報告書-中間処理業-(平成13・14・15・16・17年度) |
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