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福岡県情報公開審査会答申第115号
「特別弔慰金支給裁定の法的根拠に関する文書の非開示決定処分に対する異議申立て」の答申内容を公表します。
答申
1 審査会の結論
福岡県知事 (以下「実施機関」という。) が平成17年11月17日17国援第2847号-3で行った非開示決定(以下「本件決定」という。)は、これを取消すべきである。
2 異議申立てに係る対象文書の開示決定状況
異議申立てに係る対象文書(以下「本件文書」という。)は、「特別弔慰金の請求日が早い者(同意書不添付)に支給裁定し、遅い者(同意書添付)の請求を却下できる法的根拠とその内容」に関する文書である。
本件文書の開示請求に対し、実施機関は、平成17年11月17日17国援第2847号-3で開示請求に係る根拠法令は公文書ではないとして、福岡県情報公開条例(平成13年福岡県条例第5号。以下「条例」という。)第11条第2項の規定により本件決定を行った。
なお、実施機関は、本件決定通知書に「関係条文は、戦没者等の遺族に対する特別弔慰金支給法(昭和40年法律第100号。以下「特別弔慰金支給法」という。)第6条です」と記載し、併せて異議申立人に通知した。
3 異議申立ての趣旨及び経過
(1)異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、実施機関に対し、本件決定の取消しと、請求が早い者(同意書不添付)に支給裁定し、遅い者(同意書添付)の請求を却下できることが明記された公文書の開示を求めるものである。
(2)異議申立ての経過
ア 平成17年11月11日付けで、異議申立人は、実施機関に対し、条例第6条第1項の規定に基づき、本件文書の開示請求を行った。
イ 平成17年11月17日付けで、実施機関は、開示請求に係る根拠法令は公文書ではないとして、本件決定を行い、その旨を異議申立人に通知した。
ウ 平成17年12月2日付けで、異議申立人は、本件決定を不服として、実施機関に対して異議申立てを行った。
4 異議申立人の主張要旨
異議申立書、意見書及び意見陳述における異議申立人の主張を要約すると、次のとおりである。
(1)実施機関が、特別弔慰金却下処分を行った法令根拠と主張する特別弔慰金支給法の規定は、同順位者の同意書を添付した請求書を却下でき得る理由法令規定ではない(同条は関連法律ではある)。法律は文書ではない。開示請求対象外である」との実施機関の主張は、自己の裁量権濫用を逃避せんがための本質を無視した的外れ卑劣主張である。
(2)特別弔慰金の請求代表者を協議選定するのは、請求権同順位者どうしである。同順位者どうしが協議した結果、その一人が所持する請求同意書を裁定権者都道府県知事が無視できる権限はどこにもない。同順位者から受領した同意書を無視し、請求を却下した行為は、裁量権の濫用である。
5 実施機関の説明要旨
実施機関が本件決定を行った理由を要約すると、次のとおりである。
(1)異議申立人が求めている法的根拠は法律そのものであり、条例に規定する公文書ではない。異議申立人は自分が過去に受けた処分について、その処分の法的根拠とその内容を求めたものである。具体的には、特別弔慰金支給法第6条を指す。法律は文書ではなく、公の規範であり、もともと公布されており、開示を求めなければ取得できないというものではない。
(2)仮に請求内容を根拠法令が記載された文書であると拡大解釈した場合には、その対象は法令集の該当条文が載る印刷物ということになるが、その場合にも、該当文書は図書館で閲覧可能であるので、条例に規定する公文書ではない。
6 審査会の判断
(1)本件文書の内容及び性格について
昭和40年に特別弔慰金支給法が制定され、戦後20年目の節目に当たり、改めて国として戦没者等に弔慰の意を表し、その遺族に対して特別弔慰金を支給することとされた。その後、10年の節目ごとに同法が改正され支給額が増額されている。
本件文書は、特別弔慰金の裁定に当たり、請求日が早い者(同意書不添付)に支給裁定し、遅い者(同意書添付)の請求を却下できる法的根拠とその内容を示した文書である。
(2)本件文書の特定について
実施機関は、「法的根拠は法律そのものであり、情報公開条例に規定する公文書ではない」と主張し、特別弔慰金支給法第6条が法的根拠に当たるとしている。同条は、「同一の死亡した者について特別弔慰金を受ける権利を有する者が数人ある場合においては、その一人のした特別弔慰金の請求は、全員のためにその全額につきしたものとみなし、その一人に対してした特別弔慰金を受ける権利の裁定は、全員に対してしたものとみなす。」というものである。
なお、特別弔慰金支給裁定の提出書類を定めた、戦没者等の遺族に対する特別弔慰金支給法施行規則(昭和40年厚生省令第27号)にも、同意書の添付につき明記しておらず、法令においては、申請日の順位や同意書の添付が裁定に与える有効性につき具体的に示した条文は認められない。
確かに、この特別弔慰金支給法第6条は、特別弔慰金の請求権同順位者が複数存在する場合の支給裁定の根拠であり、当該法律の条文そのものは公文書ではないと解される。
しかし、異議申立人が求める対象文書は、特別弔慰金の裁定に当たり、「同順位の遺族が複数存在する場合に、支給申請書への同意書添付に拘わらず、同条を適用し、請求日が早い者に支給裁定し、遅い者を却下し得る根拠」と解すべきであり、支給裁定の根拠となる法律の条文そのものを請求したとは認められない。
したがって、対象文書は同条であるとするにとどめた実施機関の判断は、本件開示請求の趣旨に合致しないと認められる。
実施機関は、同条の他に、異議申立人が請求した趣旨に沿った文書があるか再度確認し、該当文書が存在する場合には開示の当否を判断した上で、開示・非開示の決定を、該当文書が存在しない場合には不存在として非開示決定を行う必要がある。
(3)異議申立人のその他の主張について
異議申立人は、実施機関が特別弔慰金の請求を却下した行為について詳細に主張している。
また、異議申立人は、非開示決定通知書の非開示理由として、「複数の同順位者がいる場合の請求は、請求書に同順位者の同意書を添付することが必須条件です。」と明記するよう求めている。
しかしながら、当審査会は、実施機関が行った非開示決定等の妥当性を判断する機関であり、特別弔慰金支給申請書の添付書類など、処分庁が請求を受ける際の条件等について判断するところではない。
以上の理由により「1 審査会の結論」のとおり判断する。