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土地収用のあらまし
土地収用のあらまし
土地収用制度とは
憲法第29条は、「財産権は、これを侵してはならない」と規定し、私有財産を保障しています。
しかし一方では、「私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用いることができる。」と規定しています。
この規定を受けて制定されたのが土地収用法であり、「公共の利益の増進と私有財産との調整を図る」ことを目的として、土地などを収用又は使用するための手続や補償の内容について規定しています。
道路、河川、鉄道、学校などの公共事業のために土地が必要となった場合には、通常、その事業の施行者(起業者)が土地所有者と話し合い、売買契約などを結んで土地を取得します。
しかし、補償金の額などで折り合いがつかなかったり、土地の所有権や境界について争いがあり、話し合いによって土地を取得することができない場合があります。
この場合、起業者は、土地収用法に基づいて、はじめに国土交通大臣又は県知事の事業認定を受け、次に収用委員会に対し収用の裁決申請をすることになります。
収用委員会は、起業者から収用の裁決申請がなされると、中立公正な立場で起業者や土地所有者等の主張を聞き、最終的に収用する土地の区域や補償額を判断(裁決)します。
このように、土地収用制度の手続を行うことにより、起業者は、正当な補償の下に土地を公共事業に用いることが可能となります。
裁決手続の流れ
1 起業者が収用委員会へ裁決申請及び明渡裁決の申立てをします。
収用の裁決の申請には、土地の所有権などを取得するための裁決申請と建物などを移転して土地の明渡しを求める明渡裁決の申立ての2つがあります。明渡裁決の申立ては、裁決申請と同時か裁決申請の後に行われます。
- 裁決申請には土地調書、明渡裁決の申立てには物件調書が添付されます。
- 起業者は、裁決申請を行うに当たっては土地調書を、明渡裁決の申立てに当たっては物件調書を作成し添付する必要があります。
- これらの調書には、起業者、土地所有者及び関係人の署名押印が必要になりますが、土地所有者及び関係人は署名押印の際に調書の記載事項に異議があれば、異議の内容を調書に付記することができます。このように異議を付記した事項については、収用委員会の審理などでその真否を争うことができます。
- なお、異議を付記しなかった事項については、調書の記載事項が真実ではないと立証しない限り、異議を述べることができなくなります。
2 土地所有者及び関係人にも次のような権利があります。
【裁決申請の請求】
起業者が事業認定を受けた後は、土地所有者又は土地に関して権利を有する関係人(抵当権者などを除く)は、自己の権利に係る土地について、起業者に対し、裁決申請を行うよう請求することができます。
【補償金の支払請求】
起業者が事業認定を受けた後は、土地所有者又は土地に関して権利を有する関係人(抵当権者などを除く)は、自己の権利に係る土地について、起業者に対し、土地に関する補償金の支払を請求することができます。
なお、裁決申請前にこの請求をする場合には、裁決申請の請求と併せてしなければなりません。
補償金の支払請求があったときには、起業者は支払請求者に対して、原則として2ヶ月以内に起業者の見積りによる補償金を支払わなければなりませんが、収用委員会が行う裁決手続開始の登記がされていないときには、その登記がなされた日から1週間以内に支払えばよいこととなっています。
【明渡裁決の申立て】
起業者から裁決申請があり、明渡裁決の申立てがなされていない場合は、土地所有者又は関係人は、収用委員会に明渡裁決の申立てをすることができます。
3 収用委員会は裁決申請書・明渡裁決申立書を受理します。
裁決申請又は明渡裁決の申立てがあったときは、収用委員会は、その申請書又は申立書が法令に適合しているかどうかを審査し、適合している場合はこれらを受理し、申請書又は申立書の写しを収用しようとする土地の所在する市町村長に送付するとともに、土地所有者及び関係人に対して裁決申請又は明渡裁決申立てがあったことを通知します。
4 裁決申請書・明渡裁決申立書は市町村で縦覧されます。
収用しようとする土地の所在する市町村長は、裁決申請又は明渡裁決の申立てがあったことなどを公告し、裁決申請書又は明渡裁決申立書の写しを2週間縦覧します。
5 土地所有者及び関係人は意見書を提出することができます。
土地所有者及び関係人は、縦覧期間内に、収用委員会に損失の補償及び明渡しの期限などについて意見書を提出することができます。
意見書の様式は法令で定められてはいませんが、意見書には少なくとも
- 作成年月日
- 提出者の住所及び氏名
- 押印
を忘れないでください。
6 収用委員会は裁決手続開始の決定及び登記をします。
市町村における裁決申請書の縦覧期間(2週間)が経過すると、収用委員会は、裁決手続の開始を決定してその旨を公告し、収用しようとする土地を管轄する登記所(法務局)に、裁決手続開始の登記を行います。
この登記を行うと相続人などを除き、登記後の権利の移動は起業者に対抗できなくなり、起業者及び収用委員会は、この時点での権利者を当事者として取り扱うことになります。
7 収用委員会は審理を行います。
収用委員会は申請書等の縦覧終了後、起業者、土地所有者及び関係人の意見を聞くために、公開で審理を開催します。
また、通常、第1回審理を開催する前に、現地調査を行います。
起業者、土地所有者及び関係人には、あらかじめ審理の期日及び場所を通知します。
なお、審理に代理人が出席する場合は、委任状が必要です。
審理の内容については、おおむね次のとおりです。
- 事業計画
- 収用に至るまでの交渉経緯
- 収用しようとする土地の区域
- 損失の補償
- 権利取得の時期
- 明渡しの時期
- 審理内容については、記録(速記録)を取っていますので、当事者や傍聴人による録音などはできません。また、会場内でゼッケン、ヘルメット及びハチマキなどを着用することもできません。
- 収用委員会は、審理において当事者の主張を聞き、意見の対立する事項(争点)を整理し、審理を終了(結審)します。
- なお、当事者が審理に出席しない場合は、原則としてそのまま結審することになります。
8 収用委員会は裁決を行います。
収用委員会は、審理などで明らかになった内容について調査、検討を行い、最終判断となる裁決を行います。
裁決には、裁決申請に対する応答としての権利取得裁決と明渡裁決の申立てに対する応答としての明渡裁決があります。裁決される主な事項は、次のとおりです。
この事項は、裁決書主文に記載されます。
権利取得裁決 | 明渡裁決 |
|
|
- 損失の補償については、原則として各人別に金銭で補償することになっています。
- 権利取得裁決があると、起業者は、権利取得の時期までに補償金を支払い、権利取得の時期に土地の所有権を取得します。
- 明渡裁決があると、起業者は明渡しの期限までに補償金を支払い、土地所有者や関係人は、土地にある建物などの物件を移転して、土地を明け渡さなければなりません。
- 裁決前に、当事者間で合意が成立した場合は、任意契約を締結して裁決申請又は明渡裁決の申立てを取り下げるか、収用委員会で和解調書を作成することができます。
9 裁決される損失の補償は、次のとおりです。
収用委員会は、損失の補償について、起業者、土地所有者及び関係人が申し立てた範囲内で裁決することになっています。
例1 |
※このような場合、委員会認定額が当事者の主張する額を下回っていることから、委員会認定額に最も近い起業者見積額10万円が裁決額になります。 |
例2 |
※このような場合、委員会認定額が当事者の主張する額の範囲内であることから、委員会認定額15万円が裁決額になります。 |
例3 |
※このような場合、委員会認定額が当事者の主張する額を上回っていることから、委員会認定額に最も近い土地所有者等の申立額20万円が裁決額になります。 |
【土地に関する補償】
権利取得裁決において、次のような損失の補償が裁決されます。
○土地に対する補償
土地所有者に対する補償で、一般的にいう土地価格にあたり、近傍類地の取引価格等を参考にして価格が決定されます。
○土地に関する所有権以外の権利に対する補償
関係人に対する補償で、土地賃借権などの権利の消滅に対する補償がこれにあたります。
○残地補償
一団として利用されている土地の一部が収用された結果、残地の面積が過少となるなど、残地に関して損失が生じたときに補償されます。
○残地収用
残地を従来利用してきた目的に供することが著しく困難となるときは、土地所有者は意見書で残地の収用を請求することができます。
なお、これらの補償金の額は、事業認定の告示の時における相当な価格に、権利取得裁決の時までの物価の変動に応じた修正率を乗じた額となります。
【明渡しに関する補償】
明渡裁決において、次のような損失の補償が裁決されます。
○建物等の移転料の補償
収用される土地に建物などの物件があるときは、これを移転するための費用が補償されます。
物件が分割されることにより、その全部を移転しなければ従来利用していた目的に供することが著しく困難となるときは、物件の所有者は、意見書で物件全部の移転料を請求することができます。
○その他の補償
営業上の補償、借家人補償、動産移転料など土地を収用されることによって通常受ける損失が補償されます。
なお、これらの補償金の額は、明渡裁決時の価格で決定されます。
10 裁決に不服がある場合は
収用委員会の裁決の不服がある場合には、起業者、土地所有者、関係人は、不服申立又は訴訟により争うことができます。
【損失の補償についての不服】
損失の補償についての不服※に関しては、当事者訴訟によってのみ争うことができ、審査請求や抗告訴訟によって争うことができません。
○当事者訴訟
裁決書の正本の送達を受けた日から6ヶ月以内に、裁判所へ訴えを提起することができます。
この訴えは、収用委員会を被告としてではなく、土地所有者又は関係人は起業者を、起業者は土地所有者又は関係人を被告としなければなりません。
【収用委員会の裁決についての不服】
○審査請求
裁決書の正本の送達を受けた日の翌日から起算して30日以内に国土交通大臣に対して、審査請求をすることができます。
○抗告訴訟(裁決取消訴訟)
裁決書の正本の送達を受けた日から3ヶ月以内に、都道府県を被告として、裁決の取消を求める訴えを裁判所に提起することができます。
※損失の補償についての不服とは、例えば、(1)損失補償額に不服がある場合、(2)残地補償について不服がある場合、(3)借地権の存否や土地所有権に帰属して争いがあって、補償金等の帰属先に不服がある場合、(4)収用・使用地又は建物等土地に付着する物件の面積の算定に不服がある場合等をいいます。
主な用語の説明
起業者 | 土地収用法などによって、土地を収用することのできる公共事業の施行者をいいます。 |
土地所有者 | 収用の対象となる土地を所有している者をいいます。 |
関係人 | 収用の対象となる土地に関して所有権以外の権利(賃借権、地上権、抵当権など)を有する者やその土地にある建物などの物件の所有者及びその物件に関して所有権以外の権利を有する者をいいます。 |
収用・使用 |
「収用」とは、起業者が土地所有者の意思にかかわらず所有権を取得し、賃借権など所有権以外の権利を消滅させることをいいます。 |
事業認定 | 国土交通大臣又は都道府県知事が、起業者の施行する事業について土地を収用又は使用する公益性があるかなどを判断し、起業者に収用し又は使用しうる地位を与えるものです。 なお、都市計画事業の場合には、事業の認可又は承認を受けていれば、事業認定を受けなくても、収用の手続を行うことができます。 |
収用委員会 | 土地収用法に基づいて各都道府県に設置されている行政委員会で、知事から独立し、中立公正な立場で審理や調査などを行い、起業者、土地所有者及び関係人の主張について、最終的な判断(裁決)を行います。 収用委員会は、法律、経済又は行政に関してすぐれた経験を有し、公共の福祉に関し公正な判断をすることができる人のうちから、議会の同意を得て知事が任命した7人の委員によって構成されています。 |