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令和7年人事委員会勧告
令和7年「福岡県の職員の給与等に関する報告及び勧告」の概要
本年の給与勧告のポイント
月例給、ボーナスともに引上げ
- 民間給与との較差11,226円(2.98%)の解消を図るため、若年層に重点を置きつつ、中堅層以上の職員についても、昨年を大幅に上回る引上げ改定を行い、全ての職員を対象に給料月額を引上げ
[1類(大卒)] 237,600円(+12,000円) [3類(高卒)] 206,700円(+12,200円)
- 民間の支給割合に見合うよう、期末・勤勉手当(ボーナス)を0.05月分引上げ
(年間支給月数4.60月分 → 4.65月分)
1 給与に関する報告・勧告
(1)人事委員会勧告制度の基本的な考え方
本委員会は、地方公務員法に基づき、職員の給与、勤務時間その他の勤務条件が社会一般の情勢に適応するように、民間事業所の従業員の状況、国及び他の地方公共団体の職員の状況等を考慮した上で、労働基本権制約の代償措置として、職員の給与等に関し、報告及び勧告を行っている。
(2)民間給与との比較に基づく給与改定等
ア 職員給与と民間給与との比較
職員の給与と民間の給与との比較・検討を行うため、企業規模50人以上で、かつ、事業所規模50人以上の県内の民間事業所2,247事業所から515事業所を無作為に抽出して調査を行い、把握した民間給与と職員給与を比較した。
なお、公民給与の比較に当たって、広く民間企業の状況を反映させるとともに、職務・職責に照らして、適切な比較対象とするため、比較対象企業規模を100人以上に見直す。
(ア) 月例給
民間と県職員の本年4月分給与の額について、主な給与決定要素である役職段階、年齢、学歴を同じくする者同士を対比させ比較。職員給与が民間給与を11,226円(2.98%)下回る。
民間給与(A) |
職員給与(B) |
公民較差(A-B) 〔(A-B)/B×100〕 |
388,130円 |
376,904円 |
11,226円 〔2.98%〕 |
※ 職員給与:行政職給料表適用職員のうち、行政職俸給表(一)の適用を受ける国家公務員に相当する職員(平均年齢41.4歳、平均経験年数19.6年)の平均給与月額
※ 公民給与の比較方法を見直さなかった場合の公民較差は、9,507円(2.52%)
(イ) 期末・勤勉手当(ボーナス)
昨年8月から本年7月までの直近1年間の民間の支給実績(支給割合)と職員の年間の支給月数を比較。職員の支給月数が民間の支給割合を0.04月分下回る。
民間の支給割合(A) |
職員の支給月数(B) |
差(A-B) |
4.64月分 |
4.60月分 |
0.04月分 |
※ 公民給与の比較方法を見直さなかった場合の民間の支給割合は、4.62月分
イ 給与改定の内容
(ア) 月例給(令和7年4月1日実施)
公民較差の状況及び人事院勧告における俸給表の改定内容を勘案して、給料表を改定。若年層に重点を置きつつ、中堅層以上の職員についても、昨年を大幅に上回る引上げ改定を行い、全ての職員を対象に給料表を引上げ
改定額 |
改定率 |
11,210円 | 2.97% |
[参考]職員(行政職)の初任給
給料月額 |
引上げ額 |
|
1類(大卒) | 237,600円 | +12,000円 |
3類(高卒) | 206,700円 | +12,200円 |
(イ) 期末・勤勉手当(ボーナス)(令和7年4月1日実施)
民間の年間支給割合に見合うよう、0.05月分引上げ
・4.60月分 → 4.65月分(引上げ分は期末手当及び勤勉手当に均等に配分)
[参考] 職員(行政職)の年間給与(月例給+ボーナス)の平均額
改定前 |
改定後 |
増減額 |
6,333,959円 |
6,544,493円 |
210,534円(3.32%) |
(ウ) 諸手当等
a 通勤手当
自動車等使用者に対する通勤手当の引上げや駐車場等の利用に対する通勤手当の新設等について、国に準じた見直しを行う必要がある。
b 教職員給与の見直し
公立学校の教員の給与については、法改正により、教職調整額を段階的に引き上げることとされたため、法の趣旨を踏まえた適切な処遇を実現する観点から、速やかに必要な措置を講ずる必要がある。
また、主務教諭の設置が可能となることから、その設置について調査・研究を進める必要がある。
(エ) その他の課題
人事院は、本府省の業務の特殊性・困難性の高まりに伴い、本府省の職員の職務・職責が重くなっていることを踏まえ、本府省業務調整手当の引き上げを行った。本県においても、本庁の業務の特殊性・困難性、並びに本庁職員に係る公民給与の比較方法及びその職務・職責に応じた適切な処遇の在り方について調査・研究する必要がある。
2 人事管理に関する報告
県職員は、県民の安全・安心な暮らしを守り、県の発展を牽引するとともに、次世代への責任を担う極めて重大な責務を負っている。
しかし、近年、職員採用試験の受験者数の減少、若年層職員の離職や長期病気休暇者の増加など、人材確保に苦慮している状況にある。県では、これまでも採用試験の見直しなど様々な取組を講じてきたものの、十分な成果が出ておらず、この状況を放置すれば、県行政の根幹を支える県庁の執行体制が危機的状況に陥りかねない。
この危機を打開し、将来にわたり質の高い行政サービスを提供し続けるためには、「将来を見据えた人事管理」への転換が不可欠であり、既に民間企業では、個人が未来のキャリアを主体的に描けるような取組を始めている。
本県においても、職員が高い使命感とやりがいを持って働くことができ、かつ、自分らしいキャリアを形成し、業務を通じて成長を実感できる環境をスピード感を持って構築することが必要である。そのことが、県庁が「魅力的で選ばれる組織」へと変革していくことにつながる。
また、生産年齢人口の減少に対し、限られた人的資源で最大のパフォーマンスを発揮できるよう、DXの推進等により、職員がより創造的で戦略的な業務に集中できる「持続可能な執行体制」を構築すべきである。
(1)魅力的で選ばれる組織の実現
ア 高い使命感とやりがいをもって職務に取り組める職場
(ア) 県行政を支える有為な人材の確保
令和6年度の職員採用試験の受験者数は、10年前と比較して6割程度の水準まで減少しており、将来的に必要とされる人員の確保が困難な事態に陥る懸念がある。
本委員会では、令和7年度から採用試験を大幅に見直したことで、新たな受験者層の掘り起こしにつなげたところであるが、今後、人材の流動化がますます進む中で、必要な人材を確保するためには、公務員経験者に特化したものなど新たな選考試験の検討も必要と考える。
採用試験の継続的な検証と見直し及び受験者が必要とする情報の積極的な発信を通じて、有為な人材の確保に努めていく。
(イ) 経験者試験採用職員の適応支援・育成と経験・能力の発揮
民間企業等職務経験者試験の採用者数は、増加傾向にあり、この傾向は今後も続くと予想される。経験者試験採用職員が、これまでに培った経験や知識を活かすことは、組織の活性化を促し、他の職員にも好影響をもたらすものである。
一方で、公務独特の価値観や仕事の進め方への適応、加えて既存の知識、スキル、価値観の意識的な見直しであるアンラーニングが求められるといった課題も指摘されており、新卒者同様に配慮が必要である。
こうした背景から、経験者試験採用職員の強みを最大限に引き出しつつ、県組織への円滑な適応を支援するためには、多角的なアプローチが不可欠である。
各任命権者においては、経験者試験採用職員がそのポテンシャルを最大限に発揮できる環境を整備していくことが強く求められている。
(ウ) 職務・職責をより重視した適切な給与等処遇の改善
県行政を支える優秀な人材を確保するためには、職務・職責をより重視した給与等の処遇面での取組が必要であり、その実現のため、国に準じて公民給与の比較方法を改善することとし、比較対象とする企業規模をこれまでの「50人以上」から「100人以上」に見直す。
(エ) 公務員倫理の徹底
県の発展を担う職員には、使命感と規範意識に満ち、諸課題に敢然と立ち向かう精神が求められる。そのため、職員一人ひとりが、県民全体の奉仕者であること、自らの行動が県職員全体の信用に大きな影響を与えることをしっかりと自覚し、公務内外を問わず自らの行動を厳しく律しなければならない。
任命権者においては、これまで以上に職員の綱紀の保持、服務規律の確保について徹底を図ること、管理監督者においては、職員の勤務態度や生活の異変を察知できるよう、風通しの良い職場づくりに取り組むことが重要である。
イ 一人ひとりが成長を実感できる職場
(ア) キャリア形成の支援
近年、「キャリア形成」や「成長実感」を強く意識し、兼業・副業への関心やワーク・ライフ・バランスを重視する傾向が見られるなど、若年層のキャリア意識の変化は顕著である。
こうした若年層のキャリア形成への関心の高まりを受け、職員が自身のキャリアを考える機会を提供し、組織としてその成長を支援することが求められている。
任命権者には、職員のモチベーションと組織パフォーマンスの向上のため、職員が公務外の経験を含めて新たなチャレンジや意欲に応じたキャリア形成に積極的に取り組める職場環境の整備に努めるよう求める。
併せて、管理職員に若年層職員のキャリアに対する意識の変化について理解を深めさせ、各職場で職員の自律的なキャリア形成に対する適切な支援が行われるよう、必要な指導・啓発を徹底することが肝要である。
(イ) 人事評価を通じた人材育成の推進
人事評価においては、職員一人ひとりの意欲的な業務への挑戦と、さらなる成長を促すことで、ひいては組織活力の向上につなげていくことが肝要である。
評価の過程で行われる面談は、職員が成長を実感する機会であり、上司と部下の双方向のコミュニケーションと具体的な行動への指導・助言を含む適切なフィードバックを通じた面談の質の充実が不可欠である。更に、評価者全体に対し繰り返し研修を実施し、評価能力の均一化を図ることも重要である。
任命権者は、職員の理解と納得感を高めながら、より効果的な人材育成を目指し、今後も人事評価制度に適切に取り組むことで、組織全体の持続的な発展に貢献することが求められる。
(ウ) 女性活躍推進
任命権者は、特定事業主行動計画に基づき女性職員の登用を推進しており、一定の成果をあげているところではあるが、引き続き、同計画に基づく積極的な登用を進める必要がある。
職員が昇任を前向きにとらえるためには、キャリアに関する不安を払拭するための研修において、管理監督職員として働くことの魅力を伝えるとともに、仕事と家庭を両立しながら自らのキャリアを描いていける環境を整備することが重要である。
また、性別や家庭の事情などによる無意識の思い込み(アンコンシャス・バイアス)の意識改革を促し、職員に多様な職務機会を提供することでキャリア形成を支援し、両性の視点を広く県の施策に反映させていくことが肝要である。
今後も引き続き、計画に基づいた積極的な採用や登用、両立支援、管理監督者として職責を担うことのやりがいや魅力の発信、多様な職務機会の提供等に着実に取り組み、職員の活躍をより一層推進していく必要がある。
ウ 誰もが働きやすい職場
(ア) 長時間労働の是正
長時間労働の是正は、最も優先すべき課題の一つである。任命権者においては、定例的な業務により恒常的に長時間労働となっている場合と、災害対応等のように突発的に長時間の時間外勤務を命ぜざるを得ない場合とを区別した上で、引き続き、その要因の整理・分析や職員の負担軽減につながる取組を一層進めていく必要がある。
長時間労働の是正は県庁全体で取り組まなければならない課題であり、全庁的な業務の見直し・効率化の推進により、時間外勤務縮減に努めていくことが重要である。
(イ) 教職員の働き方改革
教育の質を維持し、更に向上させていくためには、教職員が児童・生徒と十分に向き合う時間の確保・充実が必要不可欠であり、教職員が一丸となって働き方改革に取り組むことが重要である。
県教育委員会においては、現在実施している取組の結果を検証し、効果的な取組を強力に推し進めるとともに、教員が行うことを要しない業務の外部委託の検討や、先進的な取組を行う学校をモデル校として、働き方の改善のための具体的手法を効率的に広めること等が必要である。また、市町村教育委員会に対して、教職員の働き方改革が推進されるよう働きかけていくべきである。
さらに、校長等の管理職員がリーダーシップを発揮し、率先して業務の見直しや効率化・合理化を進めるとともに、誰もが周囲に相談しやすい環境を構築することが極めて重要である。
また、県及び市町村の教育委員会が主体となって、管理職員が学校内のマネジメントに注力できる体制を整備することも重要である。
(ウ) 柔軟で多様な働き方ができる職場づくり
働く場所や勤務時間を柔軟に選択できる働き方は、仕事と生活の両立支援、能力発揮やライフスタイルに合った多様な働き方の実現につながる有効な取組であり、人材確保の観点からも極めて重要である。任命権者においては、現行の制度の活用状況や職員のニーズを踏まえ、国や他の都道府県、民間労働法制の動向にも留意しながら、引き続き充実を図る必要がある。
特に、男性職員の育児休業や育児に係る休暇の取得率は女性職員と比べて依然として低く、任命権者は、管理職員の意識改革を促すなどして、男性職員がこれらの休業や休暇を取得しやすい職場づくりを進めていくべきである。
(エ) ハラスメント防止及びメンタルヘルス対策
職員一人ひとりが能力を最大限に発揮し、意欲的に職務に取り組むためには、心身の健康が不可欠であるが、職場におけるあらゆるハラスメントは、心の健康を損なわせる深刻な問題であり、組織全体の公務能率の低下や貴重な人材の損失にもつながりかねない。
管理職員をはじめとする全ての職員は、誰もがハラスメントの行為者となり得ることを十分理解した上で、他者を尊重し、ハラスメントのない職場づくりに主体的に取り組むことが求められる。
職員の心身の健康を損なう要因として、ハラスメントのほか、職場の人間関係、仕事の質・量などが考えられることから、人事異動、昇任等により業務内容や環境に変化が生じた職員は、メンタル不調となるリスクが高く、特にきめ細かな配慮が必要である。
管理監督者においては、メンタルヘルス不調の早期発見・早期対応に努めることが極めて重要であり、任命権者においては、風通しのよい職場づくりなどに着実に取り組んでいく必要がある。
(オ) 会計年度任用職員制度の適切な運用
会計年度任用職員が意欲を持ち、安心して働くためには、適切な勤務条件の確保が重要であり、任命権者においては、引き続き適切な制度運用を行う必要がある。
(カ) 職員と組織が共に成長する好循環を生み出す取組
本県が、「働き続けたい組織」として職員から選ばれるために、職員の組織に対する満足度を向上させることが必要であり、任命権者が職員の満足度向上を阻害する要因を洗い出し、確実に改善していくことが重要である。
そのために、任命権者が、手元にある人事関連の情報を用いた現状分析により課題を把握した上で、職員の組織に対する思い入れ、働きがいや意欲、自身の成長実感などの「エンゲージメント」に関する調査を実施し、改善施策へとつなげていく取組が有効である。
(2)持続可能な執行体制の構築
ア 業務プロセスの最適化の徹底
持続可能な執行体制を構築するためには、限られた資源を最大限に活用し、より質の高いサービスを提供できるよう、業務プロセスの最適化を徹底することが必要である。
本県では、業務のアウトソーシングの推進、テレワークなどの環境整備、業務マニュアルなどの作成による業務の標準化に取り組んでおり、こうした取組を更に進めていくべきである。その際、現場の意見を積極的に取り入れ、より現場に即した改善を検討すること、一過性のものとせず継続的に改善を繰り返していくことが重要である。
イ 生成AIなど先端技術を活用したDXによるパフォーマンスの向上
本県では、「福岡県行政改革大綱」及び「福岡県DX戦略」に基づき、デジタル技術の活用による働き方改革を積極的に推進しており、RPAやAI-ОCRを導入し、業務の効率化と職員の負担軽減に一定の成果を上げている。これらに加えて、生成AIなどを活用したDXの推進は、職員がより付加価値の高い業務に注力できる環境を創出し、結果として長時間労働の是正やワーク・ライフ・バランス向上に寄与するものであり、こうした先端技術の積極的な活用を推進していくべきである。
ウ 人事関連情報のデジタル化による戦略的人事管理の実現
知事部局では、人事管理業務のデジタル化が進められているが、更なるデジタル化による業務効率化の余地が大きいと考えられる。
職員が使命感とやりがいをもって業務に取り組むためには、個人の意向にも十分配慮した人事配置を行うことが不可欠であり、職員の発令履歴、研修の受講履歴、人事評価結果、異動希望をはじめ、資格・免許、前歴での職務内容、専門分野など、人事関連情報をシステムで統合的にデータベース化し、人事異動業務のDXを推進することが有効である。
また人材確保が厳しさを増す中、組織に必要な人材像を明らかにし、庁内各部局における人材構成を分析・可視化することで、将来を見据えた戦略的な人事管理を行うことが重要となる。
任命権者には、取組の基盤となる人事関連情報の総合的データベースを早期に整備することが求められている。