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英彦山に49あるといわれる修験者の修業の場「窟(いわや)」。写真は第一窟の玉屋神社

特集

再生された古民家のベッドルームの写真

フクオカ古民家再生プロジェクト

古民家は、日本の伝統的技法で建てられた築50年以上の建物のこと。太い梁(はり)や大黒柱など重厚で風格ある古材に加え、欄間(らんま)や格子戸など繊細な技巧も大きな魅力。古き造りを現代に生かして、未来へ継承する古民家再生に注目しましょう。

日本らしい原風景を生かして文化を紡ぐ

太宰府天満宮に仕えた絵師・吉嗣家(よしつぐけ)の邸宅として大正時代に建てられた古民家「古香庵(ここうあん)」を、一部現代風のリノベーションを加えてレストラン+宿泊施設として再び活用したホテルカルティア太宰府。「私たちの使命は、当時の雰囲気、趣を今に伝えるだけでなく、文化として未来へ紡ぐこと」。三宅智大(みやけともひろ)支配人は、古民家に宿る文化までを未来へ伝えたいと意欲を見せます。

中でもひときわ目立つのは庭の石畳の先に残された立派な蔵。しっかりとした土壁の扉の先には、忙しい日常を忘れられる空間が広がっています。「古民家を生かすためにも利用することを意識しますね」と支配人。「使わないままだと建物は風化してしまいます。できるだけ多くのお客様にご利用いただけるよう努力しています」。ポイントは”利活用“。古民家には人の息吹が必要と聞けば大いに納得です。

太宰府天満宮のお膝元、全国有数の観光地として知られる太宰府。日中はたくさんの観光客で常に賑わっていますが、朝や夜の厳かな雰囲気の太宰府を知っている人は多くありません。長い歴史のある太宰府に泊まることで、古き良き文化や風習をより近くに感じてもらいたいと話す支配人。古民家の再生を通して、地域活性化への期待が大きく膨らみます。

庭にある蔵の写真

緑豊かな庭に建つ蔵「KOKOUAN棟」は一棟貸しならではのプライベート感を味わえる一番人気の客室

ガラス窓のあるダイニングの写真

ダイニングの窓辺に揺らぐガラスも当時のまま

蔵の中のリビングの写真

蔵の中は昔の造りを生かしたリビングが。階段を登ると高い天井を生かしたベッドルームに

敷地全体に大正時代の建物が並ぶ写真

大正時代の建物をそのまま活用。建物はもちろん、ここまで敷地全体がきれいに残っていることは珍しいそう

別棟の外観写真

近隣にある別棟「KOUKOTEI棟」と「BAIKA棟」も、かつて魚屋や料亭だった建物を改修したもの

  • ホテルカルティア太宰府の位置にマークがついた福岡の地図のイラスト
  • [住所]太宰府市宰府3-3-33
    [電話]0120-210-289(総合受付11:00~20:00)

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ワーケーションをきっかけに地域に人が集う仕組みづくりへ

フルーツの里として多くの人が訪れるうきは市。その農村地に建てられた築約140年の古民家が、今年7月にコワーキングスペース※やレストランを連携させた宿泊施設「ごえん」に生まれ変わりました。

「空き家古民家は大切な地域資源。その資源を活用して、地域に必要とされる『古いけれど新しい』施設を造りたいと思いました」と語るのは、全国古民家再生協会の理事であり、「ごえん」の改修を手掛けた、川口智廣(かわぐちともひろ)さん。

最近は、デジタル技術の発展により、場所に縛られない働き方を選択する人が増えています。宿泊施設と働ける場所をつくることで、観光のみを楽しんで帰る人が多かったうきは市にも、豊かな自然の中で働き(ワーク)ながら、休暇(バケーション)を楽しむ、ワーケーションという新しい滞在を望む人が訪れるようになりました。

古民家の再生を通して、地域に人が集い、地域が活性化する、そんな新しいまちづくりが行われています。

※共同で仕事をする場所

全国古民家再生協会理事 川口さんの写真

「目先の数年だけでなく、10年、20年、その先を見据えた改修をすることが大切」と川口さん

ごえんの外観写真
ごえんの浴室の写真
ごえんのウォッシュルームの写真
ごえんのベッドルームの写真

「ごえん」の外観と内装。
予約からチェックイン・アウトまでIoT※で無人管理ができるようシステム化されている。
うきは市には他にも古民家宿泊施設が続々誕生
※あらゆるものをインターネットに接続させる技術

フラットフォームうきはの内装写真
フラットフォームうきはの外観写真

「FLATFORM UKIHA」の外観と内装。
築約70年の古民家を再生したコワーキングスペース「FLATFORM UKIHA(フラットフォーム うきは)」。施設の隣には人気のフレンチレストランも

  • ごえんの位置にマークがついた福岡の地図のイラスト
  • FARM STAY 御幸通り ごえん
    [住所]うきは市浮羽町浮羽792
    [電話]0943-73-7078(うきは福富古民家まちづくり協議会)
    FLATFORM UKIHA
    [住所]うきは市浮羽町浮羽756
    [電話]0943-73-7522

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こうじが生み出す新たな魅力。地域や人が元気に

浦野醤油醸造元(うらのしょうゆじょうぞうもと)は豊前市にある創業約150年のしょうゆ・みそを製造する小さなこうじ蔵。1907(明治40)年に建てられたこの蔵は、旧中津街道宿場町の面影を伝える重要な建造物として、2021年に国の登録有形文化財として登録されました。

以前はこうじ蔵として、商品の製造が中心でしたが「地域住民の集まる憩いのスペースにしたい」という若女将・浦野敦子(うらのあつこ)さんの思いのもと、2021年の夏に改装。昔からの欄間(らんま)や柱は残したまま、蔵の一部をカフェスペースにし、甘酒やこうじを使ったスイーツの提供や塩こうじやみそ作りのワークショップを始めました。

若い世代に興味を持ってもらえるよう、SNSでカフェの情報を発信。カフェを目当てに、遠くから来られるお客さんも多く、販売しているしょうゆやみそを手に取られることも。

カラフルで目を引く「にじいろ甘酒」はラベルに「豊前」の文字が入り、使用する素材はすべて福岡県産だそう。「カフェを通して、豊前を、そして福岡県を多くの人に知ってもらえるきっかけになれば」と浦野さん。蔵の小さな改装は、地域を元気にすることにもつながっています。

こうじ蔵外観写真

旧中津街道沿いに建つ築115年のこうじ蔵

カフェ店内の写真

カフェではこうじのスイーツやコーヒーなどのメニューも提供

しょうゆやみそ製造中の写真

蔵は今もしょうゆやみその製造場所。大半の工程が手工業

甘酒スムージーの写真

甘酒スムージーは発酵に興味がある方はもちろん、多くのお客さんに人気の看板メニュー

若女将 浦野敦子さんの写真

商品作りもカフェも担当する浦野さん

にじいろ甘酒が多数並んでいる写真

人気の「にじいろ甘酒」は季節ごとに多彩な商品が

古民家と出会い 新たな人生へ活力

キッチンカーでピザ屋を開業していた有松位(ありまつたかし)さん。脳梗塞を患ったことを機に、雑貨屋を経営していた妻の幸美(ともみ)さんと一緒に店舗兼住宅にできるような家を探したところ、築90年を超える古民家に出会い、一目惚れ。古民家ならではの魅力を生かすためにあえてリノベーションを行わず、造りをそのまま再利用したカフェと雑貨の店をオープンしました。

「古民家に出会って私たちの人生も再生しました」。笑顔のご夫妻が手作りする日替わりランチやハンバーガーが人気です。

カフェ店内の写真

一面ガラスの広い窓も昔のまま。庭を眺めるカウンター席にもなっている

居間の写真

居間は落ち着いた客室に利用。昭和初期のピアノも健在

有松位さん・幸美さんご夫妻の写真

店舗兼自宅の古民家の前で。笑顔の有松位さん・幸美さんご夫妻

木花咲耶外観写真

外観もそのまま

  • 木花咲耶の位置にマークがついた福岡の地図のイラスト
  • [住所]鞍手郡鞍手町新北1147-4
    [電話]080-2940-0960
    [定休日]木曜日ほか

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古民家に住むという環境に優しい選択

古民家に住むという
環境に優しい選択

古民家の昔ながらの造りを生かしつつ、新しい住まい手に合わせてリフォームをすることで、空き家となって朽ちる前に再生できます。例えば、来客用の広い和室は間取りを変更して家族中心となるリビングに。また冬の寒さ対策に断熱効果があるガラスに変更することも。

古民家を有効活用し新たに再生することは、独特の味わいのある空間を創造できるだけでなく、廃棄物の削減や、温室効果ガスの排出抑制につながる、環境に優しい取り組みです。

古民家内装写真

築80年の古民家の古材をリユースした新築。古材の力強い梁組みとステンドグラスが印象的

築95年の古民家の内装写真

築95年の古民家。定年後に住む日本家屋を探されていたオーナーがリフォーム

[お問い合わせ]
一般社団法人 福岡県古民家再生協会
[電話]050-3786-3833