小特集
福岡県と大分県にまたがる標高約1200メートルの英彦山。
山形の出羽三山(でわさんざん)、奈良の大峰山(おおみねさん)と並ぶ、日本三大修験道(しゅげんどう)の一つとして知られています。
修験の痕跡が残る英彦山では、悠久の歴史を育んできた土地の神秘的な雰囲気を感じることができます。
天と地をつなぐ神の山、英彦山へ
国道500号が山道へと差し掛かる辺りから、にわかに光景が変わります。空は広く、空気は澄み、木々の色は深みを帯びてきます。そうした光景の行きつく先にあるのが英彦山です。
古来から神の山として信仰されてきた霊山で、太陽神である天照大神(あまてらすおおみかみ)の御子、天忍穂耳命(あめのおしほみみのみこと)が御祭神(ごさいじん)であることから「日の子の山」すなわち「日子山(ひこさん)」と呼ばれていました。始まりについては定かではありませんが、鎌倉時代の『彦山流紀(ひこさんるき)』には英彦山にこもり、厳しい修行(修験(しゅげん))を行う「修験者(しゅげんじゃ)」が集い、集落を形成していたと記されています。江戸時代の最盛期には修験者3000人、彼らが暮らした坊舎(ぼうしゃ)は800を数えたそうです。
さて、英彦山には「四土結界(しどけっかい)」という考えがあったといわれています。三つの鳥居を境に四つの世界に分けられるというものです。下界と天界を隔てるのが、一つ目の鳥居、「銅鳥居(かねのとりい)」。ここから英彦山神宮奉幣殿(ひこさんじんぐうほうへいでん)のそばにある二つ目の鳥居「石の鳥居」までが、仮の浄土といわれています。石の鳥居から先は修験者が厳しい修行を積むための場。三つ目の「木の鳥居※」をくぐれば英彦山神宮の社殿(上宮)が鎮座する、神と仏の世界です。石の鳥居以降は険しい山道が続きますが、歩いたものだけが出会える美しい世界が待っています。特に山が錦に染まるこれからの季節は格別。修験者のように悟りを得るとはいわずとも、清々しい心持ちになれるに違いありません。