特別対談 株式会社QPS研究所 代表取締役社長 大西 俊輔さん × NPO法人円陣スペースエンジニアリングチーム 理事長 當房 睦仁さん × 福岡県知事 小川 洋

 宇宙ビジネスは、人工衛星やロケット関連製品だけでなく、衛星データを活用したサービスの提供など、今後大きく成長することが期待されています。
 今回、小川知事は、令和元年12月に世界最高レベルの超小型レーダー衛星「イザナギ」の打上げに成功された大西俊輔さんと、ものづくり企業の技術を結集してその衛星開発に貢献された當房睦仁さんをお迎えし、宇宙ビジネスの魅力や衛星開発に懸ける思いについて語り合いました。

大西 俊輔さん

株式会社QPS研究所 代表取締役社長
大西 俊輔(おおにししゅんすけ)さん
九州大学大学院 航空宇宙工学専攻卒、博士(工学)。大学院在学時より小型人工衛星開発プログラムに従事し、平成25年、株式会社QPS研究所(福岡市)に入社。翌年、代表取締役社長に就任。「イザナギ」の打上げ成功により、九州から世界の宇宙産業にインパクトを与える。

當房 睦仁さん

NPO法人円陣スペースエンジニアリングチーム 理事長
當房 睦仁(とうぼうむつひと)さん
平成9年、睦美化成(久留米市)代表取締役に就任。平成19年、円陣スペースエンジニアリングチーム(e-SET)を結成し、地元企業10数社と協力して宇宙産業に参入。平成24年、e-SETをNPO法人化し、次世代の産業育成と技術者の地域定着を図る。

「イザナギ」の打ち上げ成功、2号機「イザナミ」の打ち上げへ

知事:初号機「イザナギ」の打上げが成功した瞬間は、県庁のパブリックビューイングで県民の皆さんと喜びを分かち合いました。子どもたちや宇宙に関心のある人をはじめ、多くの県民の皆さんに夢や希望を与える、まさに快挙でした。2号機「イザナミ」の打上げも楽しみですね。

大西俊輔さん(以下、大西):ありがとうございます。初号機の打上げ成功により多くの反響がありました。そして2号機は、令和2年12月以降、アメリカの宇宙開発企業スペース・エックス社の主力ロケット「ファルコン9」に搭載されて宇宙に旅立つ予定です。

知事:いよいよですね。2号機はどんなところが進化しているのですか?

大西:太陽電池パネルが増えて、より多くの電力が取り込めるようになりました。またイザナギとイザナミの2機体制になることで、得られるデータがより増え、スムーズな地表面の観測が可能になります。最終的には令和7年を目標に36機打ち上げる計画で、実現すれば、昼夜、天候を問わず地表面を観測でき、より詳細な画像が10分間隔で取得できます。特に、地上で現地確認が困難な災害時には、宇宙からの画像が迅速な災害対応に大いに役立つと思います。

知事:夢やロマンだけでなく、衛星を利用して、暮らしを豊かにするビジネスまでも見越して取り組む時代になってきています。この衛星の開発に携わった県内16社を中心とした企業は「福岡版下町ロケット」としても話題になりました。樹脂加工が本業の當房さんが宇宙ビジネスに参入されたきっかけは?

當房睦仁さん(以下、當房):平成19年に九州大学の講演会で宇宙ビジネスの話を聞いて、当時所属していた久留米市の異業種交流団体のメンバーに相談すると、12社が「面白そう!」と興味を示し、そこから皆で衛星開発への挑戦を始めました。

知事:ものづくりと言っても、衛星の開発はご苦労も多かったのでは?

當房:私はものづくりはプロですが、宇宙のことは素人なので求められる品質の水準が分からず、手探りでした。衛星の部品は軽さを要求される一方、打上げ時の振動や衝撃などに耐えうる強度も求められます。メンバーで知恵を出し合い、いろいろ試行錯誤を重ねました。九州地場の企業のみで製作した製品で打上げが成功したことは大きな自信になりました。

福岡県が持つポテンシャル

知事:令和2年9月、本県は、国から「宇宙ビジネス創出推進自治体」に選定されました。お二人から見た、福岡県の強みや特長を教えてください。

大西:宇宙ビジネスの発展には、宇宙から得たデータが、実際に人々の生活に役立つサービスになっていくことが必要です。福岡県は元々、ITやソフトウェアの企業が集積しているので、ハードとソフトが両輪となってサービスを生み出していく土壌があることが強みだと思います。

當房:私は久留米が地盤ですが、筑後地方は製造業の歴史が古く、業種が多岐にわたっていて、それぞれの技術力は世界でも十分戦えるレベルです。また、地理的にも九州のハブとして各地との交流があることも強みなので、教育・研究機関との連携により、さらに奥行きのある技術革新が可能になると思います。

知事:心強いお言葉です。令和2年9月、お二人をパネリストにお招きした「福岡県宇宙ビジネスフォーラム」では、約200人が参加し、ウェブ配信でも300人が視聴し、宇宙への関心の高まりを実感しました。今後、お二人に続く人が増えていくことを期待しています。

▲イザナギ打上げのパブリックビューイングの様子

宇宙ビジネスへの期待 県民の皆さんへのメッセージ

知事:最後に、宇宙を夢見る子どもたちや宇宙ビジネスへの参入を目指す企業に向けてメッセージをお願いします。

大西:私が宇宙に興味を持ったのは小学生の頃、ペットボトルでロケットを作る科学教室に参加したことでした。試行錯誤して最後には上手に飛ばせた経験が今につながっています。皆さんも失敗を恐れず、まずは一歩踏み出してみてください。また、宇宙ビジネスに関心のある人は、他業種の人と知り合う機会をいかに多く持つか、業種を問わず同じ思いを持って高め合うことが大切です。県主催の「福岡県宇宙ビジネス研究会」などの交流会にぜひ積極的に参加してみてください。私も、宇宙ビジネスを目指す皆さんと語り合いたいです。

當房:行動力は大事ですよね。私たちも13年前の講演会を聞いたから新しい挑戦に踏み出せました。出会いの場が新しい何かを生むのだと思います。そして最初の旗上げ役になって周囲を巻き込むことも重要ですね。

知事:子どもたちにはいろんなことに挑戦して、面白いと思ったことは続けてほしい。失敗してもその原因を考え、行き詰まったとしても試行錯誤しながらやり続けてほしい。それを実践してこられたのがお二人だと思います。
また、當房さんは13年前、まさに旗上げ役となって仲間を集められました。県では、その橋渡し役として、これからも業種を越えた出会いや交流のきっかけの場を作っていきます。とりわけ、令和2年は新型コロナウイルスにより多くの事業者が影響を受けました。ピンチをチャンスに変えるため、新しいビジネスに挑戦して未来を切り開く企業を力強く後押ししてまいります。

▲試作アンテナを囲むe-SETのメンバーの皆さん

●超小型レーダー衛星「イザナギ」とは?

令和元年12月11日、インド・サティシュ・ダワン宇宙センターから打ち上げられた。夜間や悪天候時も地表面を観測でき、車の判別もできるほどの高解像度の性能を持つ。衛星本体は県内企業16社をはじめ、九州の地場企業が協力して開発。令和2年12月以降、2号機「イザナミ」を打ち上げる予定。

集合写真

※この対談は、十分な距離の確保、換気の実施など、新型コロナウイルス感染症対策を講じ、10月26日に実施しました