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小特集

北九州市響灘で実証事業スタート

CО2フリー水素で持続可能な未来へ

脱炭素社会の実現へ向けて、期待が高まる水素エネルギーの可能性。北九州市・響灘地区で、再生可能エネルギーを有効活用した「CО2フリー水素」の製造・供給の実証事業が進められています。

響灘地区につくられたCО2フリー水素実証設備の写真

CO2フリー水素の製造・供給拠点化を目指し、太陽光や風力などの再エネ施設が集積する響灘地区につくられた実証フィールド

脱炭素化を目指す中、注目される水素エネルギー

地球温暖化の大きな要因とされる温室効果ガス。中でも二酸化炭素(CО2)は、温暖化に及ぼす影響が最も大きいとされています。多くの国々がCО2削減に取り組む中、日本は 2050年までに温室効果ガスの排出量を全体としてゼロにするという「カーボンニュートラル」を打ち出しました。将来の世代も安心して暮らせる持続可能な社会をつくるために、CО2を多く排出する石炭や石油などの化石燃料からの脱却が急がれる中、熱や電気として利用することが可能で、燃焼させてもCО2を排出しない次世代エネルギーとして注目されているのが「水素」です。

水素社会の実現に向けた実証事業が本格スタート

水素は、地球上のさまざまな資源からつくることができますが、脱炭素の観点から注目されているのが、太陽光や風力などの再生可能エネルギー(以下「再エネ」)を用いて水を電気分解する方法です。再エネ由来の水素は、製造・貯蔵・利用においてCО2を排出しないことから「CО2フリー水素」と呼ばれます。

福岡県は、産学官の連携組織「福岡水素エネルギー戦略会議」を設立し、水素社会の実現に向けていち早く取り組んできました。環境省のモデル構築・実証事業に採択されたことを受け、昨年、県と北九州市、(株)北九州パワー、(株)IHI、福岡酸素(株)、ENEOS(株)が連携して、複数の再エネを効率よく活用し、CО2フリー水素の製造から利用までの一環したシステムを構築する実証事業を本格的に開始。水素社会実現への足掛かりとなることが期待されています。

開所式の写真

CO2フリー水素実証設備開所式の様子(2021年11月)

■実証事業の流れ

実証事業の流れのイラスト

水素を「つくる」「ためる」

再エネを利活用した水素づくり

水素のつくり方は大きく分けると、天然ガスなどの化石燃料から水素を取り出す方法と、水に電気を通して水素と酸素に分解する方法があります。化石燃料由来の場合、製造過程でCО2が排出されますが、太陽光や風力など再生可能エネルギーで得た電力で水を分解する方法では、CО2を排出せずに水素を「つくる」ことができます。

再エネ施設が集まる北九州市響灘地区では、現在、太陽光、風力、ごみ発電(バイオマス)といった複数の再エネを同時に制御できる「水電解活用型エネルギーマネジメントシステム(EMS)」を活用した国内初の実証事業が行われています。

太陽光や風力といった再エネは、日射量や風の吹き具合などの気象条件によって発電量が左右され、安定供給の難しさがあります。また、再エネ導入が進む九州では、再エネによる余剰電力の活用が課題となっています。今回の実証事業では、EMSの開発・導入により、複数の再エネを効率よく調達して、CО2フリー水素の製造に活用することを大きな目的としています。

再エネ余剰電力は水素に変換することで、タンクへの長期間貯蔵や遠方への輸送も可能となります。余剰電力を無駄にせず「ためる」ことができる水素の利点を生かし、現在、高圧貯蔵や液化貯蔵など、さまざまな技術が開発されています。

太陽光発電と風力発電の写真

余剰電力の活用が課題の太陽光発電と風力発電

水電解装置の写真

再エネの電力を利用して水を分解し水素をつくる「水電解装置」

水素圧縮機の写真

効率的に水素を輸送するための「水素圧縮機」

たくさんのボンベが並ぶ写真
カードルという容器で運んでいるところの写真

圧縮した水素ガスはボンベに詰められ、それを束ねた「カードル」という容器で輸送

エネルギーマネジメントシステム(EMS)とは?

EМSとは、電気などのエネルギーの使用状況を“見える化”して分析し、改善策を検討し実施するシステムのことです。今回の実証事業では、発電のタイミングやピークなどでそれぞれ特徴を有する再エネの発電量を“見える化”して効率的に水素を製造しています。

水素を「はこぶ」「つかう」

水素社会への取り組みが進む福岡県

県と北九州市では、約10年前から北九州市八幡東区東田地区において、世界で初めて、パイプラインで供給した水素を市街地で利用する「水素タウン」の実証事業を行ってきました。具体的には、日本製鉄(株)九州製鉄所から供給を受けた水素を、町中を通る大規模なパイプラインを使って一般住宅や公共施設などに送り、燃料電池のエネルギーとして利用しています。

この仕組みを応用し、今回、響灘地区で製造した”CО2フリー水素“を東田地区を通るパイプラインに輸送し、水素タウンのエネルギーとして利用します。また、県内各地に設置された水素ステーションにも輸送し、FCV※の燃料として利用することで、CО2フリー水素の製造から利用までの一連の流れを実際に運用し、製造・供給モデルの構築に取り組んでいます。

FCV「MIRAI」という車の写真

技術面やコスト面など解決すべき課題も多い水素エネルギーですが、北九州市の響灘地区や東田地区をはじめとする福岡県の取り組みは、現在家庭で使われている電気やガスと同じように水素が当たり前に使われる”水素社会“の実現へ、着々と前進していることを感じさせます。

※水素と空気で発電した電気で走り、水のみを排出するCO2フリーの自動車

北九州市東田地区の風景写真

世界で初めて水素タウンのモデル都市となった北九州市東田地区

水素ステーションの外観写真

東田地区を含む県内11カ所に設置されている水素ステーション

いのちのたび博物館の外観写真

東田地区のいのちのたび博物館には燃料電池が設置されている

移動式水素ステーションの専用トラックの写真

専用トラックを用いた移動式水素ステーション