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2017 春号 SPRING 通巻586号 平成29年3月20日発行(季刊)
発行 / 福岡県 県民情報広報課

 
 
 

福岡海街紀行

第4回
写真=古谷千佳子

有明海

ほうじょう

豊穣の海

干満差の大きな干潟の有明海。
その福岡県沿岸は
筑後川や矢部川など多くの川から
豊かな栄養分が流れ込み
多様な生物を育む豊穣の海です。
秋から春にかけて、
ノリ養殖の支柱が立ち並ぶ
有明海ならではの風景が現れます。

養殖作業の様子

寒気に満ちる有明海で養殖作業に励むノリ漁師

 
「海苔ひび」

ノリ養殖のための支柱や支柱が連なる風景は「海苔ひび」と呼ばれ、俳句では春の季語。独特の幾何学模様が詩心を刺激する

有明海近辺の地図上の位置
 

真冬の夜、海を行き交うノリ養殖の明かり

 

 ノリの収穫は、主に夜行われます。矢部川河口の江浦(えのうら)漁港を出港した須崎孝義(すざき たかよし)さんの船は、養殖場に到着すると、漁船から降ろした「箱船」と呼ばれる作業船で、ノリを摘み取っていきます。いいノリはつやつやしてトロトロと滑らか。箱船の中で揺らめきます。手元を照らすのは親船に灯(とも)る明かりと、2人の頭に光るヘッドライトのみ。ふと目を上げると、作業する船のたくさんの明かりが、暗い海のはるか遠くまで満天の星と競い合うように瞬(またた)いています。冬の有明海はまさにノリ養殖の最盛期です。

 ノリ養殖は毎年9月から漁場に支柱を立てることから始まります。須崎さんの立てる支柱は約3700本。10月に種付けを行い、育苗期を経て、秋と冬の2回網を張り込み、収穫を繰り返しながら4月まで生産を行います。

山門羽瀬(やまとはぜ)漁協所属の須崎孝義さん(写真右)と、兄の克美(かつみ)さん

山門羽瀬(やまとはぜ)漁協所属の須崎孝義さん(写真右)と、兄の克美(かつみ)さん。孝義さんは現在福岡県の若手ノリ漁師で構成される福岡県有明海区研究連合会で会長を務める

「崎」は、たつさき

収穫前のノリの写真

20センチメートル程度に育ったところを収穫。数センチメートル残して摘み、伸びたらまた収穫

ノリの品質検査の様子

縦21センチメートル、横19センチメートルの全国統一規格に加工。乾燥後は一束100枚に結束され品質検査へ。色、つや、重さ、香り、味のチェックを受けて入札する

 

種付けから収穫、加工まで自然を相手に臨機応変に

 

 収穫したノリは漁港からすぐに加工場に運び、ごみを取り除いて細かく刻み、真水で洗い、薄く漉(す)いて乾燥させます。ノリは細胞が小さい方が上質の製品に仕上がります。また、ノリは昼間に成長し、夜に細胞が細かく分裂するため、収穫は夜に行います。

 一方で、昼間の作業も重要です。有明海の大きな干満差を生かした支柱式養殖の特徴は、潮が引いたときに網が海面から上がること。日光と冷たい風に当てしっかり干すことで、やわらかく味の良いノリに育ちます。「気象・海況などによって日々変わるノリの様子を見ながら、臨機応変に網の高さを調節するのが漁師の腕の見せ所」と須崎さんは話します。

 「有明海で生産された焼きのりは、黒くてつやがあり、パリッと歯切れが良く口溶けも良い。特に一番摘み(初摘み)のノリを一度は食べてほしい」。熟練の技術とたゆまぬ努力により生産されたノリは「福岡有明のり」の名で販売されています。

「崎」は、たつさき

「福岡有明のり」

問い合わせ 福岡有明海漁業協同組合連合会
電話0944-73-6166
ファクス0944-72-6161

 

■写真:古谷千佳子(ふるや ちかこ)
東京生まれ。海人(うみんちゅ)に惹かれ20年前に沖縄へ移住。潜水漁業など海の仕事についた後、写真家へ。2007年毎日放送『情熱大陸』で海人写真家として紹介される。2010年より全国に点在する海女の撮影を開始。海辺の暮らし、仕事の中に見える「さまざまな原点」を撮り続ける。