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2016 冬号 WINTER 通巻585号 平成28年12月20日発行(季刊)
発行 / 福岡県 県民情報広報課

 
 
 

福岡海街紀行

第3回
写真=古谷千佳子

豊前海

ブランドの海

冬が近づくと県東部の海岸に
「豊前海」の名を冠した
幟(のぼり)がはためきます。
沿岸一帯をグルメロードに変える
カニとカキの「豊前海ブランド」。
その誕生の背景を紹介します。

カニカゴ漁の様子

港から15分、波穏やかな海は小型漁船によるカニカゴ漁に適している。底びき網漁の漁場と重ならないよう慎重に仕掛けたカゴを引き上げる

 
楳澤篤さん(写真右)と息子の祐希さん

代々漁師の楳澤さん親子。篤さん(写真右)と息子の祐希さん。
早朝に定置網漁、その後にカゴ漁を行う

豊前海近辺の地図上の位置
 

放して育てる「豊前本ガニ」の漁

 

 豊前海は干満の差が大きな海です。そのため回遊魚の格好の産卵場となる干潟が広がり、地付きの魚介類も多く生息し、多種多様な水産物を育みます。中でもワタリガニ(ガザミ)、エビ類などの甲殻(こうかく)類が豊富で、豊築漁協(豊前市)の楳澤篤(うめざわ あつし)さんと祐希(ゆうき)さんの親子も代々受け継ぐカゴ漁でワタリガニを取っています。漁の最盛期は秋から冬。この時期、脱皮を終えたカニは大きくなり、身が詰まってきます。楳澤さんは港から約15分の漁場で、1本に50個のカゴが連なるロープを3本引き上げ、カゴに入ったワタリガニを取った後、餌(サバやコノシロ)を付け替えて、もう一度海に沈め、次の漁に備えます。カゴに入ったワタリガニ漁師たちは豊前海の豊かな恵みを残すため、13センチ未満のカニは海に放ち、卵を抱えたメスは甲羅に「トルナ」の文字を書き込み再放流します。また、稚ガニの放流も毎年行っています。こうした努力を重ねながら、身の詰まった良質なワタリガニだけを「豊前本ガニ」として食卓に送り出すのです。

調理されたワタリガニ

旬を迎えたワタリガニは身が詰まってうま味たっぷり。ゆでる、蒸す、炊き込むなど食べ方はお好みで

 

粒ぞろいのおいしさ「豊前海一粒かき」

 

 波穏やかで遠浅、幾筋もの川が流れ込んで栄養たっぷりの豊前海は、カキ養殖も盛んです。そこで育つ良質なカキを「豊前海一粒かき」のブランドに仕上げるのは、「豊前海区かき養殖研究会」に所属する漁師たち。成育を良くするための養殖のノウハウだけでなく、衛生管理や殻をきれいな姿に磨く技術を共有することで、ブランドを確立しています。

箱に積まれた「豊前海一粒かき」

「豊前海一粒かき」のブランドはいまや全国区

 

カニ、カキだけでない豊前海の恵み

 

 冬が旬の「豊前本ガニ」や「豊前海一粒かき」の他にも、豊前海では季節を通じてさまざまな魚介類が水揚げされます。春はコウイカの盛期。初夏にはコショウダイが大群でやってきます。秋の名物は脂が乗ったハモ。県水産海洋技術センター豊前海研究所では、ハモをいつでもおいしく味わえるよう、冷凍技術の開発に取り組んでいます。

 秋から冬にかけてはエビの季節。9月から10月はシバエビ、11月はヨシエビが網に入ります。特にヨシエビはクルマエビに匹敵するほど甘く濃厚な味わいが特徴です。これらの中から次の「豊前海ブランド」が生まれるかもしれません。

ザルに盛られたヨシエビ

火を通すと上品な薄紅色になるヨシエビ

 

■写真:古谷千佳子(ふるや ちかこ)
東京生まれ。海人(うみんちゅ)に惹かれ20年前に沖縄へ移住。潜水漁業など海の仕事についた後、写真家へ。2007年毎日放送『情熱大陸』で海人写真家として紹介される。2010年より全国に点在する海女の撮影を開始。海辺の暮らし、仕事の中に見える「さまざまな原点」を撮り続ける。