トップアスリートを育成するために日本オリンピック委員会が設置したJOCエリートアカデミーには、「福岡県タレント発掘事業」の修了生が多数在籍する
夢の扉が開く。
ここは故郷の福岡から約100キロメートル離れた東京である。トップ選手の練習拠点、味の素ナショナルトレーニングセンターには若者の夢が満ちている。五輪への夢が。
初夏の某日。緊張感あふれる静寂の中、フェンシングの剣がぶつかり、乾いた金属音が鳴り響く。剣先がキラキラっと光る。
マスクを外すと、福岡県出身の脇田樹魅(わきたじゅみ)は白い歯を見せて笑った。ヒタイを汗が流れ落ちる。
「毎日、すごく楽しいです。自分から向かっていかないと強くなれないし、相手の練習にもならない。ほんと世界が広がっています」
脇田は帝京高校1年生の16歳。小学4年生の終わりに世界で活躍できる選手の育成を目指す「福岡県タレント発掘事業」に挑戦し、2万人中55人の狭き門をくぐり抜けた。クラブ活動は何もしていなかったけれど、運動神経は確かだった。50メートルを6秒台で走った。
タレント発掘事業で2年間いろんな競技に挑戦し、「全く知らなかった」フェンシングへの適性を見出された。
「剣持って、カッコいいし、楽しい競技です」
脇田のモットーは、タレント発掘事業のキャッチコピーでもある「夢の扉は開くまで叩き続けろ」。夢とは幼稚園の頃に胸に抱いた五輪メダル。小学校の卒業文集には「オリンピックのメダルをとって、みんなを魅了したい」と書いた。
その夢の扉を叩くため、JOC(日本オリンピック委員会)エリートアカデミーのトライアルを受け、合格した。「東京、ヤッターみたいな。芸能人にも会えるって」。小学校卒業後に単身上京し、都内の学校に通いながら、食べて、鍛えて、大きくなった。はや4年。ホームシックは一度もない。
ここでは中1から高3までの40数人がフェンシングのほか、卓球、レスリングなどの競技に励んでいる。指導者、施設、仲間に恵まれ、毎年、海外にも遠征する。「環境にすごく感謝しています」
視線の先には2020年東京五輪のメダルがある。ナショナルトレーニングセンターの廊下には歴代の五輪メダリストの写真が飾ってある。自分の写真も載せたいか、と問えば、辛子めんたいこが大好きな16歳は無邪気に笑った。
「載りたい。いや載ります、絶対、載ります」
いいぞ、その意気である。福岡の星よ、夢の扉を叩き続けろ!