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グラフふくおか 2015秋号 AUTUMN 通巻580号平成27年9月20日発行(季刊) 発行 福岡県 県民情報広報課

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ふくおかスポーツ宣言! SPORTS of FUKUOKA 文=松瀬学

開け、夢の扉 福岡から世界へ

スポーツライターの松瀬学さんが、福岡県のスポーツのWいまWに光を当てる「ふくおかスポーツ宣言!」。今回は、「福岡県タレント発掘事業」や「福岡アーチェリーアカデミー」など、トップレベルの選手を次々と生み出している取り組みを紹介します。

トップアスリートを育成するために日本オリンピック委員会が設置したJOCエリートアカデミーには、「福岡県タレント発掘事業」の修了生が多数在籍する

 夢の扉が開く。

 ここは故郷の福岡から約100キロメートル離れた東京である。トップ選手の練習拠点、味の素ナショナルトレーニングセンターには若者の夢が満ちている。五輪への夢が。

 初夏の某日。緊張感あふれる静寂の中、フェンシングの剣がぶつかり、乾いた金属音が鳴り響く。剣先がキラキラっと光る。

 マスクを外すと、福岡県出身の脇田樹魅(わきたじゅみ)は白い歯を見せて笑った。ヒタイを汗が流れ落ちる。
 「毎日、すごく楽しいです。自分から向かっていかないと強くなれないし、相手の練習にもならない。ほんと世界が広がっています」

 脇田は帝京高校1年生の16歳。小学4年生の終わりに世界で活躍できる選手の育成を目指す「福岡県タレント発掘事業」に挑戦し、2万人中55人の狭き門をくぐり抜けた。クラブ活動は何もしていなかったけれど、運動神経は確かだった。50メートルを6秒台で走った。

 タレント発掘事業で2年間いろんな競技に挑戦し、「全く知らなかった」フェンシングへの適性を見出された。
 「剣持って、カッコいいし、楽しい競技です」

 脇田のモットーは、タレント発掘事業のキャッチコピーでもある「夢の扉は開くまで叩き続けろ」。夢とは幼稚園の頃に胸に抱いた五輪メダル。小学校の卒業文集には「オリンピックのメダルをとって、みんなを魅了したい」と書いた。

 その夢の扉を叩くため、JOC(日本オリンピック委員会)エリートアカデミーのトライアルを受け、合格した。「東京、ヤッターみたいな。芸能人にも会えるって」。小学校卒業後に単身上京し、都内の学校に通いながら、食べて、鍛えて、大きくなった。はや4年。ホームシックは一度もない。

 ここでは中1から高3までの40数人がフェンシングのほか、卓球、レスリングなどの競技に励んでいる。指導者、施設、仲間に恵まれ、毎年、海外にも遠征する。「環境にすごく感謝しています」

 視線の先には2020年東京五輪のメダルがある。ナショナルトレーニングセンターの廊下には歴代の五輪メダリストの写真が飾ってある。自分の写真も載せたいか、と問えば、辛子めんたいこが大好きな16歳は無邪気に笑った。
 「載りたい。いや載ります、絶対、載ります」

 いいぞ、その意気である。福岡の星よ、夢の扉を叩き続けろ!

■文:松瀬学(まつせ まなぶ)
1960年長崎県生まれ。福岡県立修猷館高校、早稲田大学を通じラグビー部主力選手として全国大会に出場。卒業後は共同通信社記者として、同社退社後はフリーのスポーツジャーナリストとして、さまざまな競技を世界各地で精力的に取材している。