県では、NPO・ボランティアや企業、行政など、多様な主体の「協働」による“新しい共助社会”づくりを進めています。このコーナーでは、毎号、新しい共助社会づくりに取り組む皆さんをご紹介します。
水と緑の恵みを受け、県内でも有数の穀倉地帯となっている朝倉市ですが、江戸時代以前は、干ばつに苦しめられてきた歴史があります。およそ220年前に大改修され、この地を肥沃な田園に変えたのが、今もなお現役で筑後川の水を引き込んでいる「山田堰」です。
平成22年8月、「朝倉市まちづくりチャレンジ大学」による取り組みの一環で、ペシャワール会の中村哲医師を招き講演会が開かれました。中村医師は、飢餓に苦しむアフガニスタンでの人道支援のひとつとして、山田堰をモデルに用水路を建設。乾いた大地を潤し、難民となっていた多くの人々を救ったといいます。
「現在でも農業に多大な役割を果たしている山田堰をはじめ、堀川用水、三連水車は、先人の築いた歴史や文化を後世に伝えるシンボルとしての役割も果たしています。中村医師の話に感銘を受けて、これらの地域の宝をあらためて大事にしていこうという思いの輪が広がりました」と、「山田堰土地改良区」の事務局長である徳永哲也さんは語ります。
世界農業遺産は、自然や生態系と調和した継承すべき農業システムを保護しようとする、国連食糧農業機関(FAO)の認定制度。平成24年7月、「朝倉市まちづくりチャレンジ大学」を中心に、山田堰土地改良区、朝倉市の3者による、「『山田堰』等の世界農業遺産登録をめざす協働会議」が始動しました。これまでに講演や見学ツアーなどを重ね、市民の郷土への思いを育んできました。再び中村医師を招いた講演会では、約700人が詰め掛けるなど、世界農業遺産登録に向けた活動は大いに盛り上がりを見せています。事務局長の篠ア正美さんは、「この地で長い間受け継がれてきた農業システムや文化、景観を守ることが、生き物たちを保護することにもつながります。登録のためには、筑後川中流域全体での一体感が不可欠なので、もっとたくさんの方へ理解を広げていきたい」と語ります。
同会議では、近隣市町村に協力を呼びかけ、平成27年のFAOへの申請を目指しています。地域の宝を未来に残すための取り組みは、筑後川の流れのように力強く続いていきます。