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2017 秋号 AUTUMN 通巻588号 平成29年9月20日発行(季刊)
発行 / 福岡県 県民情報広報課

 
 
 

福岡の古墳

かつて大量の石人・石馬の群れを墳丘に連ねていた岩戸山古墳。
全国の装飾古墳の中でも、文様の複雑さと華麗さにおいて比類のない王塚古墳。
石に刻まれ、石に描かれた古代世界の中から、当時の北部九州の歴史的背景と
古代人の卓越したテクノロジーを探っていきます。

靫(ゆぎ)を負う石人/高さ154cmの石人。靫とは矢を入れる武具の一種。矢を背負い、髪を美豆良(みずら)に結った人物が彫られている
(岩戸山歴史文化交流館)

巨石に刻まれた思い ~岩戸山古墳~

 527年、九州の一大勢力、筑紫君磐井(つくしのきみいわい)の連合軍と、ヤマト王権の継体(けいたい)天皇との間に起こった「磐井の乱」は、古代最大の内乱といわれています。その当事者である磐井が生前に築いた墳墓が、八女市にある岩戸山(いわとやま)古墳です。墳墓からは、石で形どった武人や馬など、100点以上もの石製表飾品(せきせいひょうしょくひん)、いわゆる石人・石馬が見つかっています。
 当時、主流であった土製の埴輪(はにわ)と違って、石には耐久性があり、窯で焼かない分、より大きなものが造れるメリットがありました。また、何より埴輪を愛用するヤマト王権との対比を形で示したと考えられています。
 材料となる石は、加工しやすい阿蘇溶結凝灰岩を切り出していたと考えられていますが、その巨大さ故、運搬や作製作業にはかなりの労力と時間を要したことでしょう。
 ここに立つ石人たち一体一体には、ヤマト王権への対抗心が深く刻まれています。

 
武装石人頭部

武装石人頭部/高さ73.5cmのかぶとを被った石人の頭部。筑紫君磐井をモデルにしたといわれている(岩戸山歴史文化交流館)

石馬

石馬/馬の胴体の部分で、長さ163cmある。鐙(あぶみ)などの馬具も細かく彫られているのが特徴(岩戸山歴史文化交流館)

岩戸山古墳

岩戸山古墳/6世紀前半の前方後円墳。別区と呼ばれる祭祀を行なった場所には、墳丘に向いて被葬者を見守るように石人・石馬(レプリカ)が置かれている

 

岩戸山歴史文化交流館

平成27年11月に開館した歴史文化交流館です。石人・石馬など考古資料の展示のほか、年間を通じた古墳文化などの歴史講座、勾玉(まがたま)づくり体験や弓矢体験など、さまざまな交流・体験事業を行っています。

八女市吉田1562-1/電話 0943-24-3200 ファクス 0943-24-3210/
開館時間:9時~17時15分(入館は17時まで)
休館日:月曜日(祝日の場合はその翌日)・年末年始

岩戸山歴史文化交流館
 
 

装飾に込めたメッセージ ~王塚古墳~

 桂川町にある王塚(おうづか)古墳は、6世紀中頃に造られたと考えられており、石室のほぼ全面を埋め尽くす壮麗な装飾文様が特徴の「装飾古墳」です。文様には被葬者を安らかに黄泉(よみ)の国にいざない、邪悪なものから守るという意味が込められています。
 王塚古墳の発見は、昭和9年。農地の復旧工事作業中に、作業員が振り下ろしたツルハシが石室内に穴を開けた偶然によるものでした。完全に復元すると全長約86mにもおよぶ遠賀川流域最大の前方後円墳ですが、実は、発見のきっかけとなった復旧工事の際に半分以上が失われていたのだとか。
 しかし、その美しい彩色壁画は、人々を驚かせ、史跡における国宝といわれる「特別史跡」に装飾古墳として初めて指定されています。また、外部の墳丘上段には、性質の異なる土を交互に盛ることで頑丈に造る工夫を行うなど、古墳の内外での並々ならぬこだわりも感じます。
 一本のツルハシが開けた小さな穴からは、多くの古代人の思いが溢れ出し、私たちを古代の世界へと引き込みます。

 
王塚古墳後室・前室
王塚古墳

王塚古墳後室・前室(レプリカ)/黒と赤の騎馬が描かれた前室の袖石(そでいし)。生前の被葬者を描いたか、悪い霊から被葬者を守る騎馬と考えられている

王塚古墳/わが国を代表する装飾古墳の一つ。装飾古墳は、朝鮮半島の影響を受けたものもあり、早い時期から北部九州には、朝鮮半島と交流を持つ勢力があったと考えられる

 
蕨手文

蕨手文(わらびてもん)/蕨の形に似た渦巻き文様。その起源は唐草文様とも、再生を象徴する蕨とも、中国の生命の樹の思想を取り込んだものともいわれる 

双脚輪状文

双脚輪状文(そうきゃくりんじょうもん)/南島産のスイジ貝をモチーフにしたともいわれる。魔除けの文様と考えられる

三角文

三角文/三角形は銅鐸や鏡などにもみられる古代の神聖な文様。悪い霊を排除する意味が込められている

 
壁画の顔料

壁画の顔料/王塚の装飾では、赤、黄、白、緑、黒の5色の顔料を使用。赤はベンガラ、黄と白は粘土、黒はマンガン、鉄を含む鉱物、緑は海緑石が用いられたとみられる

 

王塚装飾古墳館

王塚古墳に隣接するテーマ館で、館内には発掘された資料などを展示。中でも、石室のレプリカは発見当時の鮮やかな壁画を再現。装飾古墳の世界を楽しく学べます。

桂川町寿命376番地/電話 0948-65-2900 ファクス 0948-65-3313
開館時間:9時~16時30分
休館日:月曜日(祝日の場合はその翌日)・年末年始

■王塚古墳 秋の特別公開
平成29年10月14日(土)・15日(日)/受付時間:9時30分~16時

王塚装飾古墳館
 
 

県内の代表的な装飾古墳

県内の主な王墓分布図
1
竹原古墳(宮若市):貴人にさしかけた一対のうちわ「さしば」の間に、波、船、馬を引く人、怪獣が描かれている
2
五郎山古墳(筑紫野市):騎馬に乗り、狩りをする姿が描かれている
3
珍敷塚(めずらしづか)古墳(うきは市):船が描かれていて、船首に鳥が止まっており、来世に向かっていることを意味する。また、月の象徴である蝦蟇(がま)が描かれている
4
日岡古墳(うきは市):壁のほぼ全体を赤、青、黄で彩色。同心円文や蕨手文、三角文などが描かれている
5
弘化谷(こうかだに)古墳(広川町):全国でも少ない双脚輪状文が描かれている