スタッフは交代制で9人。梅干しの種を取り除いたり、煮物は柔らかくしたりと、年配の方へ配慮した調理方法を取り入れている。左から楠森さん、長野さん、古谷さん
「70歳現役社会」づくりの輪は、県内の各地域にも広がりつつあります。
県北東部に位置する京都郡みやこ町。商工会やまちづくり企業などが中心となり、買い物が不便な山あいに住む高齢者を対象とした、お弁当の宅配サービスを企画し、県の「70歳現役社会づくりモデル地域事業」第一号の採択を受けました。
「『おいしかったよ』って声を聞くのが、すごくうれしい。やりがいを感じます」「年齢なんて関係ない!働いていると、生活にも張りが出てきます」
笑顔でそう話すのは、栄養士の資格を持ち、仕入れや献立を担当する長野宏子さん(69歳)と、料理が趣味の古谷美千恵さん(66歳)。元農協支所の空き施設を改造した厨房に明るい声が響きます。
調理や配達を行うスタッフはすべて地域のお年寄り。おいしい地元の野菜をふんだんに使ったお弁当は、利用者にも好評です。
今後は、生活必需品などの買い物支援も計画中。高齢者が高齢者を支える、新しい取り組みが動き出しています。
「高齢化はわが国だけの課題ではありません。ヨーロッパやアジアでも急速に進んでいます。『高齢社会先進国』であるわが国の対応は、諸外国から注目されているのです」と話すのは、高齢者問題に詳しい法政大学大学院教授の藤村博之さん。「福岡県の取り組みは、世界の中でも先頭を行く日本の、さらに先を目指す果敢な挑戦」と期待を寄せます。
「65歳以上は高齢者」と国連が定義したのは、昭和31年。その年のわが国の平均寿命は約65歳でした。私たちは平均寿命以上の人を「高齢者」と呼んできたのです。
それから半世紀を経た現在、わが国の平均寿命は約83歳と大幅に延伸。内閣府の調査によれば、約七割を超える高齢者が「働きたい」「社会の役に立ちたい」と希望しています。
こうした高齢者の気持ちに応えるためにも、そして、少子・高齢化が進む中、社会の活力を維持していくためにも、長寿社会の新しいモデルをつくることが求められています。
「社会から支えられる側」であった高齢者が「社会を支える側」になる。そんな新しい社会をつくることができれば、これから本格的な高齢社会を迎えるアジア諸国のモデルにもなるでしょう。福岡県の挑戦は、大きな期待と注目を集めています。