本文
労働相談 (始末書の提出)
問
答
懲戒処分としての「けん責」とは、通常、始末書を提出させて将来を戒めることを言います。始末書は顛末書とは異なり、単に非違行為の経緯を報告することにとどまらず、一般的には、その非違行為について事実関係を明らかにするとともに、謝罪と再発防止の意を表明させ、本人に反省を促すことを目的としています。
この始末書提出を拒否したことにより、さらなる懲戒処分が可能かについては、過去の判例が肯定説と否定説に分かれており、慎重な対応が求められます。
肯定説の判例では、『始末書の提出を命ぜられた以上、労働者は提出する義務を負い、提出しないことが就業規則に定めた懲戒事由である「職務上の指示命令に従わない」ことにあたるとして懲戒処分の対象』と判示しています。
一方、否定説の判例では、『労働契約は労務提供と賃金支払いという対価関係にあり、始末書提出拒否自体を「企業秩序を乱す行為」とみることは相当ではなく、そこに反省・謝罪といった精神的な服従は必要ないとして、始末書提出は労働者の任意に委ねられ、懲戒処分を通じてその提出を強制することはできない』と判示しています。
学説上は否定説を採る傾向にあるといわれていること、判例の中には憲法で保障された「個人の内心の自由」の観点から始末書の提出命令には一定の限界があるとするものがあること、また、始末書提出拒否をもって更なる懲戒処分を課すことは「一事不再理の原則(二重処罰の禁止)」から許されないとする指摘もあることから、始末書不提出をもって追加の懲戒処分を課すことは適当ではないと考えられます。ただし、始末書不提出を一定のルールと基準に基づいて、人事考課や賞与査定等において考慮することはあり得るでしょう。
【参考】
憲法第19条 (思想及び良心の自由)
肯定説の判例 エスエス製薬事件(東京地裁判決 昭和42.11.15)
否定説の判例 福知山信用金庫事件(大阪高裁判決 昭和53.10.27)
【平成26年4月当初掲載 平成31年4月更新】
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