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労働相談 通勤災害
問
当社の社員が、帰宅途中にバスから降車する際、降車ステップを踏み外し転倒しました。社員は道路で顔面を強打し骨折するなど、全治1ヶ月の重傷を負いました。この場合、通勤災害として労災保険の給付を受けられるでしょうか?
答
通勤災害とは、
(1)労働者が通勤により被った負傷、疾病、障害または死亡を通勤災害といいます。通勤と災害との間に相当因果関係がある場合に労災保険の対象になります。
(2)就業に関し、住居と就業場所の間を、往復した際に起きたものを指し、業務の性質を有するものは除かれます。(ちなみに合理的な経路(注1)及び方法(注2)で業務の性質を有するものは業務災害です。)
ご相談の社員の方は、上記2つの要件を満たした上で、通勤経路の逸脱または中断がなければ、通勤災害の保険給付を受けられると思われます。通勤災害用の保険給付請求書を作成し、労災指定医療機関、労働基準監督署に提出してください。
通勤災害が認められるかどうかは会社や事故担当者などが決めるものではなく、労働基準監督署によって決定されるものです。不明な点があれば労働基準監督署(新しいウィンドウで開きます)にお問い合わせください。
(注1)【合理的な経路】とは
(1)乗車定期券に表示され、あるいは事業所に届出している経路(バス、鉄道等)
(2)タクシー等の利用で、通常の経路が複数あるいずれかの場合
(3)道路工事など当日の交通事情により迂回する経路
(4)マイカー通勤者が貸切の車庫を経由する経路
(5)労働者(共働きを含む)以外、子供を監護する者がいない場合に、託児所や親戚などに預けるための場所を経由する経路などが挙げられます。
(注2)【合理的な方法】とは
(1)公共交通機関を利用する場合
(2)自動車や自転車等を本来の方法に従って利用する場合
(3)徒歩の場合
等、通勤方法は、通常用いられているかどうかにかかわらず、一般に合理的な方法となります。
次のような場合も通勤災害と認められます。
ア 複数の事業所に勤務する労働者の、その事業所間の移動中の災害
イ 家族を介護するための移動中の災害(「法、根拠等説明」の欄を参照)
ウ 単身赴任の労働者が、その住居間を移動中の災害
エ 職務上の懇親会後の帰宅途中の災害(「法、根拠等説明」の欄を参照)
「通勤経路の逸脱または中断」とは、通勤中に、仕事や通勤に関係なく経路から逸れることを「逸脱」、通勤経路で、通勤と関係ない行為を行うことを「中断」と言います。逸脱または中断の間、及びその後の移動は「通勤」とはみなされず、その間の被災は「通勤災害」とはなりません。
ただし厚生労働省令で、以下の行為などのための最小限度の場合は、逸脱・中断の間を除き「通勤」とされます。
ア 日用品の購入その他これに準ずる行為
イ 職業訓練やそれに準ずる教育訓練を受講する行為
ウ 選挙権を行使する行為
エ 病院、診療所で診察又は治療を受ける行為
オ 要介護状態にある一定の範囲内の家族の介護に関する行為
法、根拠等説明
【参考】
『労働者災害補償保険法』
《1》第7条第1項第2号「通勤災害による保険給付」
《2》同条第2項「通勤の定義」
《3》同条第3項「通勤の逸脱または中断の定義」
注 通勤災害に関する保険給付については同法第三節に定められています。
=判例=
ア 通勤災害と認められたケース
終業後、徒歩で義父宅に立ち寄り、義父を介護した後に徒歩で帰宅する途中で遭った交通事故について通勤災害性を肯定した(羽曳野労基署長事件-大阪地判平18・4・12)
経営知識の修得等を目的とする管理者会の会合及びその後の懇親会への出席が業務と認定され、その帰途の事故が通勤災害と認められた(大河原労基署長事件-仙台地判平9・2・25)
イ 通勤災害と認められなかったケース
夕食の買い物のため帰路を逸脱中の交通事故について通勤災害性を否定(札幌中央労基署長事件-札幌高判平元・5・8)店舗に向かう逸脱中であり認定されなかった。
通勤途中に第三者により殺害されても、通勤がたまたま犯行の機会として選ばれたに過ぎないときは「通勤に通常伴う危険の現実化」とはいえない(大阪南労基署長事件-大阪高判平12・6・28)某宗教団体の信者が、警察のスパイと勘違いされ、通勤途中に殺害された。
業務終了後、4時間ほど社内で飲食を伴う懇親会に参加した労働者が、帰宅途中に駅の階段で転倒、死亡した(中央労基署長事件-東京高判平20・6・25)業務終了後の会合の目的は2時間程度までで、それ以後は就業との関連がなかった。
【平成22年12月当初掲載(平成28年3月更新)】
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