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労働相談 転籍
問
子会社に転籍してほしいと言われましたが、労働条件が悪くなるのではないかと心配であることから拒否したいと考えています。社員が転籍を受け入れないことはできるのでしょうか。
答
転籍(転籍出向)とは、それまで勤務していた会社との労働契約を解消し、新たに別の会社と契約を結ぶことをいい、移籍とも呼ばれます。転籍後の労働関係は、転籍先が使用者としての責任を負います。転籍後は元の会社は一切の義務・責任を負いません。転籍命令には、出向(「働くとき、雇うときのルール」の「出向」参照のこと)と同様、就業規則や労働協約に転籍を命じる定めがあったとしても、これを根拠に転籍を命じることはできず、さらに労働者の個別の合意が必要とされています(三和機材事件・東京地決平成4年1月31日)。
したがって、転籍命令を会社が強要することはできず、労働者がこれを拒否しても処分はできません。
転籍命令に応じられないのであれば、同意せず、その意向を会社に伝えて話し合いましょう。
もし、会社側の転籍の必要性など理由を確かめた上で、条件によっては転籍しても良いと思われるのであれば、労働条件(賃金・賞与・業務内容・就労場所・就業規則など)を明確にしてもらい、不利益がある場合には代償措置について会社と十分に話し合うことが必要です。
将来トラブルにならないよう、有給休暇や退職金の算定方法等についても、元の会社の勤続期間も考慮されるかなど、できるだけ文書にしてもらうのがよいでしょう。
この文書は、転籍前の会社・転籍後の会社の両方を交えて作成した方がよいでしょう。
一人で悩まず、まずは、労働者支援事務所や弁護士等への相談をお勧めします。
法、根拠等説明
【参考】
ア 権利義務の一身専属性
会社は労働者の個別の同意や就業規則上の根拠もなしに、使用者としての権利を第三者に譲渡(別の会社の指揮命令下で働かせること)できないとされています(民法第625条第1項)
イ 個別の合意について
関連会社との人事交流が人事体制に組み込まれており、入社時または途中で、関連会社への転籍もあること(労働条件も明確にされている)を労働者が了承しているような事情のもとでは、改めて合意を取る必要はないとされた例もあります(日立精機事件・千葉地判昭和56年5月25日)。ただし、この様な包括的同意が認められる場合でも、権利濫用(必要性が無い、不当な動機・目的がある、甘受すべき程度を超える不利益を受ける)の法理が適用されます。
ウ 法令に違反する命令
労働組合活動を妨害、弱体化することを目的として労働組合幹部を対象に転籍命令を行うなど不当労働行為(労働組合法第7条 不当労働行為)にあたる場合や、思想信条を理由とする差別的扱い(労働基準法第3条 均等待遇)にあたる場合は、転籍命令自体が無効となります。
【平成22年11月当初掲載(平成28年3月、平成31年4月更新)】
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