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労働相談 誓約書の提出
問
会社を退職する際、社長から半強制的に
(1)競合関係にある企業に就職したり、その役員に就任しないこと
(2)競合関係となる事業を自ら開業しないこと
なお、これに違反した場合、会社が被った一切の損害を賠償する
という内容の誓約書に署名させられました。
競合関係となる事業を開業した場合、損害賠償の対象となるのでしょうか。
答
競業避止義務は、在職中の労働者には労働契約に付随する義務の一種(誠実義務)としてありますが、労働契約終了後(退職後)については、当然かつ一般的に負うものではなく、労働者の退職の自由や職業選択の自由等との兼ね合いから、競合が禁止される業務、期間、地域の範囲、代償措置の有無等の諸事情を考慮して有効性を判断すべきものです。(詳しくは、「労働相談Q&A 競業避止義務」を参照してください。)
また、誓約書の内容が明確で合理的なものであることはもちろん、労働者の自由意志で作成されたものかということも問われます。特に退職時の誓約書は、その内容が客観的に見て労働者に一方的に不利である場合、また、事実上署名・捺印を強要されたとみなされるような場合などは法的効力を認められないことがあります。
従って、誓約書があるからといって、何でも損害賠償の対象になるわけでなく、行われた行為が損害賠償に値するのかという合理性を問われることになります。
また、入社時に「会社に損害を与えたときは、その責めに応じ賠償を請求された場合は、その請求に応じます。」等の誓約書の提出を求められることもあります。それを受け入れないことは入社を諦めることに等しく、現実的には拒否できない場合が多いと思われますが、仮に誓約書に違反し、会社から損害賠償を請求された場合には、管理責任の問題など使用者の対応などを含めて判断すべきものです。
黙って損害賠償請求にすぐに応じるのではなく、まずは労働者支援事務所にご相談ください。
法、根拠等説明
【参考判例】
1 誓約書が有効と認められなかった判例
西部商事事件(平成6年4月19日福岡地裁小倉支部判決)(概要)退職する際、会社との間で機密事項を漏洩しない旨の誓約書を締結し、一旦は競業しない会社に就職したが、その後同社を退職し、競業関係にある会社に就職したため、会社側が損害賠償請求及び退職金の返還を請求した。
(判決)請求棄却
(判旨)
本件、競業避止契約は、会社の機密漏洩防止のため締結したものである。しかし、このように競業する職業に就職できないことは労働者にとって就職選択の自由に対する著しい制約である。
したがって、この契約が文字どおり、場所的に無制限、3年間もの長期間同業種への就職を制限するものであるとすれば憲法の保障する職業選択の自由に対する不当な制約として公序良俗に反する無効なものと解すべき余地がある。(中略)
ただ、過去に退職者が会社の近くで金融業を開業して会社が著しい影響を受けたことがあったことから、この契約を締結するに至った事が認められる。
そうすると、競業規制の範囲は会社の営業秘密を不正に利用したり、退職直後から会社のすぐ近くで金融業を開業するなど背信性の強い場合にのみ限定すべきものと解するのが相当である。 (中略)
本件の競業について、これを禁止しなければならないほどの顕著な背信性は認められず、本件競業禁止契約の効力が及ぶものと解するのは相当ではない。
2 誓約書が有効と認められた判例
不正競争行為差止等請求事件(平成17年6月27日東京地裁民事第29部判決)(概要)中国野菜の生産、輸入、販売等を行う原告会社の元従業員が、在職中に仕入先関連情報、顧客関連情報を複写して持ち出し、その後自らを代表者として設立した被告会社の営業のためにそれら情報を使用したとして、不正競争行為の差止め及び損害賠償を求めたもの。原告は、本件営業秘密に接する機会のあるすべての従業員に対し、本件営業秘密の範囲を具体的に示して本件営業秘密を保持する旨の誓約書を提出させていた。
(判決)請求認容
(判旨)
原告会社は、仕入先関連情報、顧客関連情報を営業秘密として扱っていた(管理状況は、鍵を原告会社代表者が保有する書庫で管理、データについては、原告会社代表者のみパスワードを了知する状態)。本件の営業秘密は、不正競争防止法第2条第4項にいう営業秘密に該当する(有用かつ非公知な情報)。被告が、原告の顧客を中心とした販売活動を繰り返し行ったこと、不正な競争行為により、原告は被害を被ったと認められる。
【平成21年6月当初掲載(平成28年3月・平成31年4月更新)】
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