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労働相談 採用内定取消し
問
今春、大学を卒業する予定ですが、内定をもらっていた会社から、経営不振を理由に内定を取り消すとの連絡がありました。今からではもう就職活動は無理です。このような理由で採用内定を取消すことが許されるのでしょうか。
答
採用内定とは、出来るだけ早いうちに優秀な人材を確保したいという会社側と、早めに就職先を決めて安定した地位を確保したいという学生側の意識が合致し、定着した採用方法です。そのため、実際の入社までにかなりの日数がある場合が一般的です。
採用内定を受け、入社式への案内通知を受け取ったり、入社誓約書まで提出しているような段階では「始期付解約権留保付労働契約」が成立していると考えられます。
「始期付解約権留保付労働契約」とは、内定者が「予定どおり卒業できなかった」とか「病気になり就労出来る状態でなくなった」など、労働力提供のために必要な要件を内定者が満たせなくなった場合に、会社側が労働契約を解約する権利を持つというものです。
このことから、採用内定の取消しは労働契約の解約(解雇)を意味しますので、解約権の行使に当たっては、客観的に合理的で社会通念上相当として是認することができる場合に限られます。
ご相談のように会社の経営不振を理由に採用内定を一方的に取り消されてしまうと、すでに就職活動をストップしている内定者は重大な不利益を被ることになるため、会社が解約権を行使する場合には、すでに就労している正社員の整理解雇に準じた検討((1)経営上の必要性、(2)解雇回避の努力、(3)対象者選定の合理性、(4)労働者・労働組合との十分な事前説明と協議)が必要となります。
これらのことを念頭に、会社に説明を求め、納得がいかなければ撤回を要求してはどうでしょうか。
それでも進展しない場合は、会社に対し他企業への就職あっせんや逸失利益の補償を求めたり、会社の説明内容によっては裁判などで争うこともできます。労働者支援事務所では、内定取消しを受けた場合のアドバイスなどを行なっておりますのでご相談下さい。
法、根拠等説明
参考
「新規学校卒業者の採用に関する指針」より抜粋
事業主は、採用内定を取り消さないものとする。
事業主は、採用内定取消しを防止するため、最大限の経営努力を行う等あらゆる手段を講ずるものとする。
なお、採用内定の時点で労働契約が成立したと見られる場合には、採用内定取消しは労働契約解除に相当し、解雇の場合と同様、合理的理由がない場合には取消しが無効とされることについて、事業主は十分に留意するものとする。
事業主は、やむを得ない事情により、どうしても採用内定取消し又は入職時期繰下げを検討しなければならない場合には、あらかじめ公共職業安定所に通知するとともに、公共職業安定所の指導を尊重するものとする。この場合、解雇予告について定めた労働基準法第20条及び休業手当について定めた同法第26条等関係法令に抵触することのないよう十分留意するものとする。
なお、事業主は、採用内定取消しの対象となった学生・生徒の就職先の確保について最大限の努力を行うとともに、採用内定取消し又は入職時期繰下げを受けた学生・生徒から補償等の要求には誠意を持って対応するものとする。
旧労働省行政解釈(抜粋)(昭和27.5.27基監発第15号)
「採用通知に赴任の日が指定されている場合には、一般にはその採用通知が発せられた日に労働契約が成立したと認められる要素が強い。」
最高裁判決 (昭和54.7.20 第二小法廷判決) 大日本印刷事件
(概要)翌年3月に大学を卒業予定の被上告人Xが、大学の推薦を受けて、7月に上告人Y会社の求人募集に応じ、その入試試験に合格し、採用内定の通知を受け、Yからの求めに応じて、所要事項を記載した誓約書を提出し、就職を予定していたところ、卒業直前の2月に突然Yから採用内定取り消しの通知を受けた。
(判決)会社側の上告を棄却し、採用内定取り消しは解約権の濫用で無効とした。
(要旨)いったん特定企業との間に採用内定の関係に入った者は、このように解約権付留保であるとはいえ、卒業後の就労を期して、他企業への就職の機会と可能性を放棄するのが通例であるから、就労の有無という違いはあるが、採用内定者の地位は、一定の試用期間を付して雇用関係に入った者の試用期間中の地位と基本的に異なるところはないと見るべきである。
採用内定の取消し事由は、採用内定当時知ることが出来ず、また知ることが期待出来ないような事実であって、解約権留保の主旨、目的に照らして客観的合理的と認められ、社会通念上相当として是認することができるものに限られると解するのが相当である。
その他参考とした判例
東京地裁(平成9.10.31決定) インフォミックス事件
【平成21年2月当初掲載(平成28年3月、平成31年4月更新)】
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