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労働相談 請負における使用者責任
問
A社に、6か月の期間で有期雇用されている従業員ですが、A社は機械組み立て工場(B社)の製造工程の一部を請負っていて、私はB社で働いています。先日、組み立てラインでの作業中、機械が思わぬ動きをして腕を負傷し、2週間休職しています。A社は現場で起きた事故なのでB社に責任があると言い、B社の言い分は発注元には責任が無く、雇用関係があるA社に責任があると言って相手にしてくれません。
工場施設はB社の社員が管理していますが、作業指示はA社の現場責任者が行っています。労災保険を受けることはできますか。また、A社、B社の責任はどうなるのでしょうか。
答
まず、労働災害によってケガや病気をした労働者の損害を補償する制度は大きく二つあります。一つは、労災補償制度であり、もう一つは損害賠償制度です。労災補償制度としての労災保険法上の労災保険は、業務上の事由又は通勤による労働者の負傷、疾病、障害、死亡等に対して迅速かつ公正な保護をするため、必要な保険給付を行うこととされており、政府を保険者として使用者を加入者とする強制保険制度です。
相談者の事例では、業務に従事中の負傷であり、業務災害として保険給付の受給要件に該当し、労災保険の療養補償給付、休業補償給付等を当然受給できると考えられます。保険給付の手続きについては、雇用契約関係のあるA社の協力を基にA社を管轄する労働基準監督署に申請してください。なお、A社が申請を拒んだ場合は、直接、労働基準監督署へ申請の手続きをすることができます。
また、使用者は、労働者の安全配慮義務を負っています。
A社については、相談者を組み立てラインの業務に従事させるにあたっての安全教育や作業中の労働災害防止のための指導監督の実施など、使用者として安全配慮義務を果たしていたかが問題になります。労災保険の保険給付については、労働者が被った損害をすべて補償するものではないため、この労災補償を上回る補償(例えば慰謝料などの精神的損害や逸失利益等)を求める場合、裁判でA社の安全配慮義務違反を根拠に、A社の不法行為ないし債務不履行に基づく損害賠償を請求することも考えられます。
さらに、請負事業等での労働災害防止の安全配慮義務は、直接には雇用関係のない下請労働者の元請事業者にも求められる場合があります(下記「三菱重工業神戸造船所事件」を参照)。
今回の事故が機械の不具合によって発生し、それがB社の機械の点検を怠っているなどの安全管理の不備に起因するものである場合、B社の安全配慮義務違反に対して、B社に損害賠償を請求することも考えられます。
以上、労災保険を使った労災補償制度と裁判上の損害賠償制度の二つを説明しましたが、事業者側との交渉や話し合いが大切であることは言うまでもありません。その結果がどうなるにしても労災保険だけは必ず自分で申請して、保険適用を先行させることをお勧めします。
【参考】
<三菱重工業神戸造船所事件(最高裁第一小法廷判決 平成3年4月11日)>
Y社造船所の下請工として同造船所内で、騒音作業を伴うハンマー打ち作業等に従事していた労働者が、Y社本工より耳栓の支給が遅れたり十分に支給されなかった結果、聴力障害を罹患したとして、Y社の安全配慮義務違反が認められた事案。(参照文献「おさえておきたい基本判例」産業保健21 2012年4月第68号)
法、根拠等説明
労働者災害補償保険法第1条、第7条
労働契約法第5条(安全配慮義務)
労働安全衛生法第30条の2
民法第415条(債務不履行による損害賠償)
【平成26年3月当初掲載(平成28年3月、平成31年4月更新)】
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