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2016 冬号 WINTER 通巻585号 平成28年12月20日発行(季刊)
発行 / 福岡県 県民情報広報課

 
 
 

特集 酒どころ、福岡。

「米どころは、酒どころ」。
西日本有数の米の産地であり、
筑後川、矢部川、遠賀川など
良質の酒造りに最適な水に
恵まれている福岡県では、
数多くの酒蔵による酒造りが盛んです。
米作り、酒造りの環境に恵まれた
「酒どころ福岡」の魅力に迫ります。

杉玉と「喜多屋」外観の写真

新酒の完成を告げる、
青々とした新しい杉玉

文政年間創業の「喜多屋」。
以来約200年にわたり、八女の地で酒造りを続けている

 

芳醇(ほうじゅん)でありながら透明感のあるうま味。
世界を魅了する「The ふくおかの酒」。

 

 「自分たちが造るのは“地酒”。地元の米を使うのは当たり前です」。そう語るのは八女市の蔵元「喜多屋」七代目当主・木下宏太郎(きのした こうたろう)さん。IWC(インターナショナル・ワイン・チャレンジ)2013日本酒部門最優秀賞(チャンピオン・サケ)に輝いた「大吟醸 極醸(ごくじょう) 喜多屋」の酒米も福岡県産の山田錦です。

 福岡の酒の特徴は、うま味。それは、西日本で作られる酒米が、うま味のある酒に仕上がる特性を持つ「晩生種(ばんせいしゅ)」が多いからだと言います。しかし一方で、発酵技術が拙(つたな)いと「重たい」味わいになることがあります。そこで、喜多屋では米の特性を見極め調整していく技術を15人の蔵人(くろうど)全てに徹底して教育。さらに温暖な気候の福岡で、年間を通して東北地方の冬に匹敵する環境を完璧に保つ醸造設備を整えることで、質の高い酒造りを実現してきました。

 「福岡の人は、福岡の食に誇りを持っている。その人たちが福岡の美味と一緒に飲んで『うまいと感じる酒』と、福岡で生まれ育ち、福岡の食に親しんだ自分が『うまいと感じる酒』はイコール、という自信がある」と木下さん。加えて、杜氏(とうじ)も蔵人も福岡の人間。感性も原料も「オール福岡を徹底的に極めた」、まさに「The ふくおかの酒」、それが喜多屋の酒だと話します。

 醸造家としての約30年間、試行錯誤しつつも目指してきたのは「芳醇かつ透明感のある」酒質。2013年、「大吟醸 極醸 喜多屋」についてIWCの審査委員長は「最高レベルの芳醇さと透明感の両立」と評しました。思えば、五代目から六代目に引き継がれる時に残された言葉も「芳醇爽快(そうかい)」。それだけに、喜多屋の「一所懸命」が世界に理解されたことは大賞をもらうよりうれしかったと言います。

 現在、15カ国に輸出される喜多屋の酒。木下さんは「世界各国の人が喜多屋の酒をきっかけに、日本に興味を持ち、『喜多屋のある福岡に足を運んでみよう』そう思ってもらえれば」と考えています。さらに「酒の需要が世界規模になれば、酒米を作っている人に貢献することになり、ひいては地域経済に貢献することにもつながる。実現は簡単ではないかもしれないが、時間をかけて努力を重ねていきたい」と言います。

 「チャンピオンを取ったことがゴールではない」と木下さん。「酒を通して多くの人に喜びを」。その真摯(しんし)な酒造りに期待が募ります。

「喜多屋」代表取締役社長の木下宏太郎さん

「発酵は微生物の力。米も毎年天候が異なり性質が変わる。完全な再現が難しく、喜多屋の酒はまだまだ発展途上」と、さらなる高みを目指す「喜多屋」代表取締役社長の木下宏太郎さん

 
白米を蒸す様子

精米した白米を蒸し、蒸米を作る

「種切り」作業の様子

蒸米を約32℃の麹(こうじ)室へ。蒸米を広げ、麹種を振る「種切り」という作業を行う

麹種を振った蒸米を布で覆い、布団を掛ける様子

麹菌が繁殖しやすいよう、麹種を振った蒸米を布で覆い、布団を掛ける

 
室蓋と吟醸麹の写真

夜に「床返し」という作業を行い、翌朝室蓋(もろぶた)に盛る。その後、昼夜問わず2時間から3時間おきの作業が1日続き、吟醸麹ができる

仕込み作業の様子

日本酒は3段仕込み。酒母(しゅぼ)に添仕込・仲仕込・留仕込と3回に分けて仕込水・米麹・蒸米を仕込む

もろみの成分を分析する様子

毎日もろみの成分を分析し、発酵温度などを制御する

 
もろみを圧搾機で搾る様子

約25日から32日後、発酵を終えたもろみを圧搾機で搾る

純米大吟醸をチェックする木下さん

50パーセント磨きの純米大吟醸をチェックする木下さん。初代より続く「主人自ら酒造るべし」の家訓に基づき可能な限り現場に立つ